密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

グローバルCMS導入ガイド(第2版)

著:岡部 武、監修:松尾 美枝

 

 経理・財務変革のコンサルティングを20年しているという著者によると、近年、お客様各社からグローバル化についての相談が非常に増えているという。その背景として、以下の2点が挙げられるという。

 

1.単体視点から連結視点へシフトし、さらなる生産性向上を図る

2.新たな成長戦略の模索

 

 日本企業の海外進出が進み、地域が増え、事業も重層化する中で、非製造業でも海外進出は当たり前になっている。このような中で、財務担当者には、以下の2つが強く求められるようになってきた。これに応える仕組みが、グローバルキャッシュマネージメント(Global Cash Management: CMS)になる。

 

・国内外のグループ会社の資金を全体最適化し、金融機関への手数料を削減する。

・海外売上高の増加に伴い分散化した資金を機動的に集約し、M&Aなど戦略分野への投資に備える。

 

 グローバルキャッシュマネージメントの本である。これは2017年に発行された第2版。CMSとは何か、なぜ重要なのか、というところから丁寧に書かれてある。グループ内のガバナンスを強化し、シナジー効果を高める、不測の事態への即応性を高め、支払利息を低減し、支払手数料を削減し、受取利息は増加させる。

 

 海外のグローバル企業は日本企業より導入が進んでいる。CMSにリスク管理の機能を加えたTreasury Management System(TMS)の導入もみられる。

 一方、銀行のサービスにもCMSがあり、それぞれの企業に閉じた用途であれば、ネッティングやプーリングなどはできるので、自前でパッケージサービスを購入してCMSを構築するのか、特定の銀行への依存度が高まることを覚悟したうえで銀行のサービスを利用するのかの検討も必要である。

 

 プーリングには、アクチャル・プーリングとノーショナル・プーリングの2種類がある。前者は、ゼロターゲッティング・プーリングのようにサブ口座の残高を日々ゼロにするようなもので、事前に取り決めたターゲット金額に合わせてマスター口座とサブ口座間の資金移動が行われる。

 ノーショナル・プーリングは、マスター口座とサブ口座間の実際の資金移動は行わず、マスター口座とサブ口座間の合算の金額をグループ全体の仮想口座とみなして取引銀行の金利計算が行われる。こちらは実際の資金移動が発生しないため、グループ企業間の貸借関係も利息もなく、それに対する源泉徴収も課せられない可能性がある。ただし、親企業に資金が集中しないことから、プーリング機能自体が限定的になるため、通常はプーリングといえばアクチャル・プーリングを指す。

 プーリングに似た概念にタームがある。タームは、グループ会社からの要請に基づいてファイナンスを実行するもので、ファイナンスを金融統括会社に集約できるし、CMSのパッケージ導入も不要で、法規制の問題でクロスボーダーのプーリングができない場合でも実施できる場合がある。また、タームは長期間の資金需要をカバーできる。本書には、プーリングとタームを組み合わせた例も載っており、使い分ける場合は「使い分けの基準」を明確にすることがポイントになると述べられている。

 

 ネッティングには、以下のような種類がある。ネッティングは、複数企業によるグローバスなサプライチェーンを構築している企業では特に効果が大きい。

 

1.ネッティング参加者による分類

・バイラテラルネッティング :2者間による相殺

・マルチラテラルネッティング :ネッティングセンター中心に複数者の相殺

 

2.ネッティング対象による分類

・ペイメントネッティング : 支払い時に支払い代金を相殺する

・オブリゲーションネッティング :売掛債権の状態でネッティングする(債権・債務を減らせる)

 

 ネッティングにおいては、決済日の統一と通貨・為替ルールの統一が望ましく、グループ会社間の取引が地方単位で閉じている場合はネッティングも階層化した方がよい。また、プーリングにしても、ネッティングにしても、各国の法規制に注意する必要がある。例えば、日本では商事法第529条でネッティングが可能になっている。

 

 本書では、シェアードサービスによる手数料・事務手数料の削減についても解説がある。ここでも、取引条件の統一や仕入れ先コードの統一などが必要になる。回収代行(コレクションファクトリー)についても書かれている。また、為替管理一元化による為替手数料の削減や、為替予約、通貨オプションについても説明がある。

  終盤では、グローバルキャッシュマネージメントシステムの導入方法、日本IBMの導入例についての解説がある。

 

 グローバルCMS導入のメリット、方式、考慮すべき点、導入検討方法が一冊にまとめられていて、あまり多いとはいえないこの分野の本としては、とても良いと思われる。尚、本書は財務の基本知識がある人向けの専門書である。

 

単行本、244ページ、中央経済社、2017/9/26

グローバルCMS導入ガイド(第2版)

グローバルCMS導入ガイド(第2版)

  • 作者: 岡部武,松尾美枝
  • 出版社/メーカー: 中央経済社
  • 発売日: 2017/09/26
  • メディア: 単行本