密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

日本海 その深層で起こっていること (ブルーバックス)

著:蒲生 俊敬

 

 日本海の広さは、世界の海域の広さの0.3%でしかない。いわばミニサイズの海である。

 また、日本海は、それぞれ約10m、50m、130m、130mの水深しかない、間宮海峡、宗谷海峡、津軽海峡、対馬海峡の4つの海峡を通じて隣り合う海とつながっているだけなので、地形的に閉鎖性が強いという特徴がある。

 一方、最大水深の方は3800mある。いわば、大きな風呂桶が4つの浅い通路を通じて他とつながっているようなイメージである。また、風呂桶の底には好漁場でもある「大和堆」のような海山がある。

 日本海は潮汐が太平洋側に比べて小さい。対馬暖流によって温暖な気候がもたらされている一方、その一部が北上して冷却されたところにアムール川起源の淡水が加わって南下するリマン海流も生じている。

 冬季には、シベリア高気圧から吹き出す寒冷な北西季節風によって大波が発生する。また、この西高東低の気圧配置は日本海の水蒸気を日本列島に運び、山脈にぶつかって雪や雨になる。

 4℃で密度が最大になる淡水とは異なり、海水は氷点まで冷やせば冷やすほど密度が大きくなる。それに加えて、比較的塩分濃度の濃い対馬暖流が北上して一部が氷結するとその周囲の凍っていない海水の塩分はさらに高まる。こうして密度の高くなった表面海水は深層に沈み、深層の水が代わりに表面に湧き上がる。この結果として、日本海の海水は上下にかき混ぜられている(熱塩循環)。この循環は日本海の深層に向かって酸素を供給することに役立っている。

 


 日本海の水温は深さとともに急激に低下する。表面で16℃くらいあっても水深200~300mで1℃以下となり、水深1000mでほぼ0℃になる。それ以下ではほとんど変化しない。また、この水深200~300mの海水は塩分濃度が均一で酸素濃度が高い。そして、日本海の低層水は100~200年で一巡することがわかってきた。

 日本海の海底層水は過去250万年の間に、「酸素を豊富に含む状態」と「酸素に乏しい状態」を繰り返してきた。この周期は氷河期と間氷期に一致しており、熱塩循環が活発化な状態かそうでないかで豊穣の海になるか死の海になるかどうかが決まる。また、対馬暖流の流れの強さの変化は太陽の活動の変化にも連動している。

 面積の小さい日本海は、地球環境の変化を受けやすい。近年、日本海の低層水の水温が上昇しており、それと連動して酸素が減少している。これは、地球温暖化の進展によって日本海北部海域における海水の冷却が弱まると同時に北西季節風も減少傾向にあることと関連していると考えられている。海洋の酸性化も進んでおり、しかも日本海の場合はそれが表層だけでなく、深い海域にも及んでいる。

 著者は海洋研究の第一人者で理学博士。自身の研究成果や北前船といった歴史的な話も盛り込みながら、日本海の特徴について丁寧に解説している。時に、理系分野の深い前提知識が必要とされるものも散見されるBlueBacksシリーズの本としては、わかりやすい方である。

 

新書、208ページ、講談社、2016/2/19

日本海 その深層で起こっていること (ブルーバックス)

日本海 その深層で起こっていること (ブルーバックス)

  • 作者: 蒲生俊敬
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/02/19
  • メディア: 新書