著:A. アインシュタイン、訳:内山 龍雄
「この論文は物理学の論文の模範として、それを志す者は必ず一読すべきものであると思う。これは科学論文として最高の傑作であり、その論旨の展開の美しさは芸術作品と称えても、決して過言ではない」(訳者による「まえがき」より)。
アインシュタインの特殊相対性理論の最初の論文の邦訳版である。この本の特徴は、訳者補注と解説部分が大変手厚く丁寧に書かれている点である。分量としては、アイシンシュタインの論文そのものより、この訳者補注と解説部分の合計の方がページ数が多いほどである。
論文そのものは、運動学の部と電気力学の部の2つのパートか成り立っている。前者は高校で理系の大学向けの理数の科目をひと通りきちんと学んで進学した者であればそれほど難しくない。一方、マックスウェル・ヘルツの方程式の変換などを説明している後者は電磁気学の知識が必要である。ただし、解説については、電気力学編についてもマックスウェルの方程式とは何を表しているものなのかということから説明されていて、理系の過程を収めた人であれば、要旨の理解は可能であろうと思われる。
人類の歴史において極めて重要なエポックとなった特殊相対性理論の基本的なエッセンスを、アインシュタイン自身の書いた論文の翻訳と専門家の力のこもった解説で味わえる。しかも、手軽で、お安い文庫版である。尚、本書は理系の学科向けの数学と物理の基礎知識は必須である。また、あくまでも特殊相対性理論のみであって、一般相対性理論は含まれていない。
文庫、187ページ、岩波書店、1988/11/16