密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

武満徹 自らを語る

著:武満徹、安芸光男

 

 作曲家の武満徹氏が60歳になる直前に行われたインタビュー。元々雑誌向けに行われた企画だが、そこには一部しか掲載されなかった。そしてその19年後にテープに録音された全編が遺族の許可を得てこのような形ではじめて紹介されることになったのだという。

 喋ったまま忠実に書かれてある。戦中にこっそりシャンソンのレコードを聴かされて感動したこと。楽器も無いのに音楽をやろうと思ったときのこと。清瀬保二の家に押しかけて楽譜を見せたら、「君はもしかしたら、こういう人の曲がすきかもしれませんね」と言われてモンポーやセヴラックの楽譜を見せられたこと。他の芸術家達と「実験工房」というグループで交流していた頃のこと。紙鍵盤しかないのを聞いて、黛敏郎がピアノを贈ったときのこと。ストラビンスキーが褒めて海外に紹介して名前が売れたころ。映画音楽を80本分も作ったこと。

 

「琵琶にしても尺八にしてもそうなんだけども、絶対的に西洋音楽的なピッチをとることは不可能なんですよね」

「日本の楽器は、やっぱり凄い時間をかけて、ひとつの音ででもなにかこう意味が深くて、非常に多義的で、西洋の音楽のように単純じゃないですよね」

「西洋の音楽はどんどん単純化する、というかピュアにきれいにきれいにしていってるでしょう」

 
 名曲「ノベンバー・ステップ」を作っているが、和楽器を使った曲はあまり書いていないそうだ。西洋音楽はひとつひとつの音に性格がないから表現媒体としては使い勝手がよくて自分向きなのだという。

「複合された響きを聴くと、なんか視覚的なイメージが出てくる」

ソナタ・フォルムのなかに音楽を書くということは、ぼくはどうしてもできないことなので」

 

 自身の音楽についての説明も興味深い。音楽で音が出会う容れ物を作ってやる、環境をつくってやるというイメージなのだそうだ。

 ロックフェラー財団奨学金でアメリカへ行ったときにデューク・エリントンに作曲を習いたいといったら冗談だろうと相手にされなかったとか、若いころに音楽を聴きたくて第9の合唱団にまぎれてステージに立ったという面白いエピソードも紹介されている。薄い本だが、興味深く読めた。

 

単行本、160ページ、青土社、2009/12/18

 

武満徹 自らを語る

武満徹 自らを語る

  • 作者: 武満徹,安芸光男
  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2009/12/18
  • メディア: 単行本