密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

医者の9割はうつを治せない

著:千村晃

 「私はどうして他人のように頑張れないのだろうか」と自分を責めるタイプの方がうつになりやすいという。責任感の強い人が夢中になって休まず仕事を続けているとうつになるケースもある。

 環境への過剰適応の状態が続くとうつになりやすく、五月病といわれるのも環境が変わってしばらくした時期に発生しやすいから。特に重度のうつでは強い自責の念と劣等感が支配する。

 したがって、医者はうつ病患者に休むことを勧める。軽い風邪が安静にして寝ていれば治りやすいように、うつ病もきちんと休むことが大切。リワークも医療行為になる。

 うつ病の薬は症状の緩和や対処療法的には効くが、うつ病のなった根本的な原因を突き止めてそこからくる不安を緩和したり取り除かなければ病気は治ることはない。うつ病の再発というのはほとんどの場合、実際は一時的な症状の軽減だけの状態で本当は治っていないのに復職して再発した、といっているケースが多い。

 精神障害の診断と統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders: DSM)について、説明しているところもある。初版では約100種類の病名があったが、第4版では360種類以上に増えているという。DSMは現代では重視されることが多いが、あまり類型化にこだわっても意味はない。他の患者がどうのということも気にしすぎるべきではない。

 また、現代はついて心の不調は以下のような4層のピラミッドがあると説明している部分もある。
・一番上:症状
・上から2層目:現在のあなたを取り巻く環境―おかれた状況
・上から3層目:身体の状態―食生活や睡眠などの生活習慣
・最下層:生い立ち、過去の環境―価値観、考え方、性格

 うつ病治療の実態はマニュアル的に治療行為をしているだけのことだという。病気の治し方のようなものは、ちゃんとマニュアルやリファレンスや常識があってそれを医大や大学病院で教えてゆくべきものだと思うが、要するに著者が言いたいのは、うつ病はそういうマニュアル的なやり方では対処療法しかできないことが多いし、だから医者の9割はうつを治せない、ということのようだ。

 

 読みやすく、会話形式で書かれている。現代は、うつ病という言葉が流行のようになっているきらいはあるが、実際に多くの人に環境面で様々なプレッシャーが存在する時代でもある。まだうつ病にかかっていなかったとしても、本書に書かれていることは頭にいれておいて損のないことであるように思う。

 

単行本、176ページ、祥伝社、2017/7/2

 

医者の9割はうつを治せない

医者の9割はうつを治せない

  • 作者: 千村晃
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2017/07/02
  • メディア: 単行本