著:遠藤 周作
遠藤周作の代表的な長編小説のひとつ。映画になり、一時話題になったので、読んでみた。徳川家光の時代に長崎に潜入したポルトガルの宣教師が主人公である。当時の厳しいキリシタン弾圧の様子が何度も出てくるため、映画はアメリカではR指定されているようだ。
すでに島原の乱も鎮圧され、鎖国とキリシタン禁制が定着しつつある時代。厳しい監視の目をくぐり抜けまだ多くの信者が隠れキリシタンとなって潜んではいるが、宣教師による日本での新たな布教はもう絶望的な状況である。厳しい試練。裏切り。連行される百姓たち。過酷な取り調べ。狡猾な要求。そして究極の選択。主人公の問いかけに、神は沈黙を守る。
主人公の宣教師とともに、この物語を立体的なものにしているのは、キチジローの存在だろう。キリストの弟子のユダを明らかに連想させるこの男は、本書のテーマにおいて決定的に重要な役割を担っている。
非常に重い作品だった。しかし、同時に、沈黙の意味が明らかにされてゆくとき、深い感動がこみあげてゆくのを禁じえなかった。
読み終えて、日本の江戸時代のキリシタン禁制下の弾圧という特殊な状況でのカトリックの宣教師の葛藤をテーマにした本作品が、海外でどのように受け止められるものなのか、ちょっと気になってAmazonの米国のサイトをのぞいてみた。映画化効果もあり、英語訳版のレビュー本数はAmazon.co.jpの日本語版のレビュー本数を大きく上回っており、80%前後の人が5つ星をつけている。内容的にも、高く評価するものが多かった。いずれにせよ、傑作中の傑作であるように思う。
文庫、312ページ、新潮社、1981/10/19