密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

未来を変える通貨 ビットコイン改革論【新版】

著:斉藤 賢爾

 仮想通貨について論じた本。仮想通貨の研究で有名な教授が書いていて、2015年に出版された本を昨年改訂したもの。ただし、仮想通貨の世界は動きが激しく、昨年後半のCoinchck事件や仮想通貨の乱高下については含まれていない。過去のMt.Gox事件についてはかなりページを割いている。

 

 内容的には、わかっている人がわかっている人向けに書いた本という感じで、仮想通貨の美術的な基礎知識が無い人がきちんと理解するのは難しいだろうと思われる。初心者向けの解説本では詳しく書いていないところが詳しく書いてあったりする反面、こんなことはわかっているだろうということが飛ばされていたり、比喩が難しかったりしている。解説本としては、万人向きではないかもしれない。

 

「私は、ビットコインは従来の通貨の概念を180度ではなく『360度変える』ものだと思っています。すなわち、元々の方向から変わっていないということです。…(中略)…もちろん、社会の変化として、ある種の改善は起きるでしょう。似たもの同士の間では、競争が成り立つからです。…(中略)…ただ、繰り返しになりますが、それは『便利になるだけ』のことです。便利になることで、搾取がより促進される、ということもあるのです」。

 

 後半のビットコインは社会の何を変えるのか、という部分の考察も、わかりやすいとはいいがたい。ただ、ところどころ、仮想通貨について考え抜いてきた人ならではの見方や考え方が披露されていて、鋭い。

 

「人はデータをなくします。データをなくすことは、モノをなくすよりもはるかに簡単で、どんなに注意深い人でも、事故などによりなくす時が必ずやってきます。また、紛失だけでなく、漏洩のリスクもあります。ビットコインでは、プライベートキーの紛失・漏えいに対する保障がありません。個人と鍵ペアが切り離されているからです。これは匿名性の中途半端な追及がもたらした罠だと思います」。

 

 イーサリウムへの懸念についても書かれており、「スマートコントラクトのプラットフォームが攻撃されたダメージは、単に通貨システムがやられる場合と比べものにならなないほど大きくなる可能性もあるのです」と述べている。ひとつのスマートコントラクトプラットリティの問題も指摘されている。その一方で、貨幣をあまり必要としない世界ソリューションがありうるとして、人間をエージェントとする自動化された問題解決プラットフォームという可能性について言及している。

 

 文章が難しめで万人向けではないし、動きの早い仮想通貨の世界では既に最新でもないが、より深く思索してみたいという人にはヒントになりかもしれない。

 

ペーパーバック、196ページ、インプレスR&D、2017/3/3

 

未来を変える通貨 ビットコイン改革論【新版】 (NextPublishing)

未来を変える通貨 ビットコイン改革論【新版】 (NextPublishing)

  • 作者: 斉藤賢爾
  • 出版社/メーカー: インプレスR&D
  • 発売日: 2017/02/17
  • メディア: Kindle