著:苅谷 剛彦
1989年と2001年に関西で行われた小学校5年生と中学校2年生の実態調査に基づいた良質な調査報告である。かなり古い調査結果になるが、だからこそ違った読み方ができる。なぜなら、この調査対象だった当時の子たちは今や大人になっている。つまり、今の若者たちの子ども時代が学習面や学力面でどうだったか、その背景はどうだったのかを知ることができるからだ。
1989年と2001年の違いで最も印象的なのは、点数のばらつき具合の変化である。かつては4割が満点近い点数を取っていたものが1/3に減っている。そして、点数の低い層が増えている。つまり、よくいわれる学力低下の実態は、実際は「学力格差の拡がり」ということになる。通塾者同士の比較も2001年の方が劣っている。また、家庭環境との相関関係も示されている。勉強離れとゆとりで浮いた時間は、テレビやゲームの時間増につながっている。つまり、「ゆとり」は生活におけるしばりを緩めた結果になっている。中学生ほど学習離れは深刻であり、知識の理解や定着をおろそかにすることで中学になって基礎学力不足が深刻化するという傾向も見られる。
希望も示されている。本書で「がんばっている学校」と名づけられている学校の試みに「一定の効果」が見られるからだ。「学習意欲」や「自主学習」の指導を重視し、「個別指導・少人数学習・一斉指導」を行い、「学習ノート」をつけさせ、「進路」や「生き方」について考えさせる。基礎をきちんとやった上で発展的学習として「総合」を位置づける。
薄い本だし、既に古い調査結果ではある。ゆとり教育も、もう過去のものになった。しかし、この教育を受けた子供たちは大人になった。今後、この国の中核をになう世代になってゆく。さらに、国の教育予算は相変わらず抑制され、二極化も抜本的に是正されたという話は聞かない。この本に書かれている教育についての問題の本質は今も大きくは変わっていないのではないか。そのような点で、示駿に富んだ内容だった。
単行本、71ページ、岩波書店、2002/10/18