著:志賀 櫻
読み進めながら、暗澹たる気持ちになる。累積赤字が膨れ上がる日本の財政と税金の関係を戦後の歩みと変化を振り返りながら紹介した本。著者は元大蔵省官僚の弁護士。
戦争中の反省から、財政規律を持っていた日本。日銀引き受けは禁じ手で、1965年までは国債発行すらしなかった。高度経済成長は日本の税収増をもたらしたので、その必要もなかった。
しかし、高度経済成長期が終わりに近づき、様子が変わっていく。成長率を維持するために財政出動が繰り返し求められる。また、社会福祉関連支出もどんどん増えてゆく。しかし、もう税収は増えない。そして日本の財政赤字はどんどん膨らんでゆく。
「増税なき財政再建」が掲げられたが、このスローガンはかえって「増税」を言い出しにくい状況を作っていく。
税金として集められたお金に群がる勢力は昔からあった。道路族をはじめとする政治家たち。天下り先を作ることに熱心な官僚たち。財投が打ち出の小槌化していた時期もある。
年金財政の深刻さは「基礎年金」という言葉に象徴される国民にわかりにくいように細工された制度になる。数々の軽減優遇措置も政策や利権結びつく。数多くの規制とばらまき。農業だけでなく、企業も古い大企業中心に恩恵を受けている。各国の税制を利用したグローバル企業のタックスヘイブンについても解説されている。
プライマリーバランスの均衡は実は当座の目標でしかないのだが、それですら達成は難しい。年金については、一般歳出に現れている問題は一部でしかなく、年金基金自体が事実上枯渇してきている。
最大の問題は、公共部門の会計の現状が正確に把握できないことである。1010兆円にのぼる政府長期債務残高とは別に1500兆円もの簿外債務が存在して増え続けるともいわれる。
著者の大蔵省時代の経験、日本政府の予算編成の仕組み、会計検査院についても書かれている。将来のハイパーインフレの可能性についても言及されている。数年前の本だが、事態はさらに深刻化している。説得力を持って、日本が置かれた非常に厳しい現状を突きつけてくる本だ。
新書、240ページ、岩波書店、2014/12/20