密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

注意人物への日常的な監視、スパイ網を通じた市民の視察、盗聴、信書抜き取り、あいまいな理由での検挙と拘束、拷問、長期拘留。『特高警察』

著:荻野 富士夫

 

 戦前・戦中を通じて猛威を振るった特高警察についての本。注意人物への日常的な監視、スパイ網を通じた市民の視察、盗聴、信書抜き取り、あいまいな理由での検挙と拘束、拷問、長期拘留。戦前を通じて日本国内では、特高警察の拷問による虐殺80人、拷問による獄中死114人、病気による獄中死1503人と数えられているという。著者は、1970年代末から取り締まり側の歴史を調査しており、特高警察についてはこれが3冊目の著作になるという。

 1900年の治安警察法と行政執行法の公布。1910年の大逆事件を契機に、その翌年に警察の特別高等課から分離して「特高警察」が誕生する。1925年の治安維持法成立。1928年の3.15事件。強固な中央集権制に支えられたこの組織は、憲兵と共に着実にその存在感を高めて行く。特に、何度か改正されてゆく治安維持法の柔軟な解釈と運用が武器となる。しかも、この特高は当時の警察では花形の部門であり、本人たちは「国家の警察」「天皇の警察」として、国体維持を守る役割に対して高い誇りと自負を持っていたようだ。叙勲や賜杯の授与も多い。1938年の国家総動員制の制定後の戦時統制強化にも貢献している。

 朝鮮などでは、外務省警察・警務顧問・駐察憲兵隊があったが、1910年の朝鮮併合時にそれらから憲兵警察制度が作られ、武断統治が10年間行われる。その後の警察制度改正で、高等警察が生まれる。台湾にも1928年に高等警察部門ができる。関東州に高等警察が置かれたのも1928年で、満州国独立後は特務警察が次第に存在感を増す。内地とは違い、社会主義運動だけでなく抗日独立運動にも目を光らせた。さらに、大東亜共栄圏と共に東亜の警察としてそれ以外の地域にも広がってゆく。

 「独断によって、何人たりとも、何らの説明もなく、なんらの条件もなく逮捕監禁し得る」という、ナチスゲシュタポとの比較は興味深い。著者は、後発のゲシュタポの強大な権限への羨望が、日本においてもさらなる特高の取締りの制約を緩和する動きを目指す要因のひとつとなった可能性を指摘している。

 特高に属していた職員たちの戦後の処遇についても書かれてある。公職追放となったのは、わずか319人。いろいろな抜け道によって、多くの人が、他の官庁に転籍するだけとなったり、その後公安警察に復帰しているそうだ。

 その誕生から活動及び終焉まで、特高警察とは何だったのかを知るには格好の一冊。

 

新書、256ページ、岩波書店、2012/5/23

特高警察 (岩波新書)

特高警察 (岩波新書)

  • 作者: 荻野富士夫
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2012/05/23
  • メディア: 新書
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