著:上村 佳孝
「メスがペニスを持つ昆虫の研究」の業績により、2017年の「イグノーベル賞」の共同受賞に輝いた学者が、昆虫の交尾研究について熱く語った本。著者が「イグノーベル賞」に選ばれたのはこの本が出版された後なので、それについては書かれていないが、かえってそういう賞がどうのということとは一切関係無い純粋な情熱が前面に出ていて面白い。
バッタやカマキリはオスの方が上に見えて実は交尾器はメスが上。ハサミムシ類は生殖器を2本持ち、うち一本を破損してももう一本のスペアを使うという。さらに、オオハサミムシの交尾器には右利きと左利きがある。トコジラミは精液を皮下注射する。しかし、なんといっても面白いのはブラジルの洞窟に棲むトリカヘチャタテのメスがペニスを持っていることの発見。ちなみに、この大発見に対して、「日本の大手マスコミの反応は、概して冷ややかだった」そうで、「朝刊にペニスはそぐわない」とも言われたそうだ。
著者自身が、研究の過程で大学院を移ったり、海外に研究拠点を移したりした経験についても振り返っている。それにしても、昆虫の交尾は確かに味わい深い。そして、その味わい深さの理由には、厳しい大自然の存在がある。そういうことを感じさせてくれる本である。
単行本、128ページ、岩波書店、2017/8/11