著:吉井理人
「投手に求められるのは傲慢とも受けとられかねないほどの攻撃的な姿勢であり、態度であるーそう自分に言い聞かせて、僕は二十四年間、日米七球団で野球を続けてきた」。
元プロ野球選手で、MLBでも32勝を上げ、北海道日本ハムで5年間コーチを務めて2回のリーグ優勝を果たした以降、名コーチと呼ばれるようになった吉井理人氏の本。共著は過去にあるが、単独ではこれが一冊目である。テーマは投手について。
とにかく、この人の経験は多彩だ。MLBではランディ・ジョンソンやマダックスと投げ合い、プレーオフでも先発するといった輝かしいキャリアを誇る一方で、ドミニカのウィンターリーグに参加したこともあるし、日本では、野村や仰木といった名監督の指揮下でのプレーもしている。日本ハムではコーチとしてダルビッシュらをサポートした。いろいろなエピソードが織り込まれており、なかなか面白い。
投手に必要なものは「ボール」「力の入れ具合」「感情」の3つのコントロール。ピッチャーが本当の意味で力を発揮できるのは30代になってから。
トップ・オブ・ザ・ボール(投げる瞬間に指がボールの真上にある)。投球動作の基本は、ファスト→スロー→ファスト。
変化球は低く、ストレートは大胆に。コーチにできることは実際は限られているが、その中でもっとも重要なのはコンディション作り。捕手のリードは「ピッチャー主体」「キャッチャー主体」「状況主体」の3つがある。
野茂はフォークに意図的に回転をかけていた。ダルビッシュは天才と呼ぶにふさわしい投手で、自己修正能力に優れる他、身長が高いのに腕が短いためボールの出所が見えずらいという特徴もある。
斎藤祐樹投手をめぐって栗山監督と言い争いになったことは何度もある。武田勝ほど天才肌の投手はいない。野村監督ほど選手の気持ちを優先させることが上手な監督はいないし、采配も正攻法。古田敦也捕手の優れていた点。
メッツ時代の豪華守備陣。マイク・ピアザとマウンド上で喧嘩になったこと。バレンタイン監督やロビンソン監督の思い出。マイペースな伊良部。ハーシュハイザーに学んだこと。箕島高校時代の尾藤監督への感謝。将来は、マイナーでいいから、アメリカでコーチをやってみたいという夢も語っている。
個人的に、吉井投手がアメリカで投げていた頃は頻繁にBSで大リーグの中継を見ていたので、結構興味深かった。本人も語っているように、当時のMLBは薬物規制が緩かったこともあって、ソーサー、マグワイア、ボンズといった物凄い強打者が活躍する超打高投低時代だった。
全体的に、様々な体験を通して日米のそれぞれの野球の良いところを学んできたことがよくわかる内容だった。
新書、211ページ、PHP研究所、2013/3/1