密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

宗教国家アメリカのふしぎな論理

森本 あんり

 

 アメリカはキリスト教、特にプロテスタントの大国である。ただし、日本で仏教が日本独自の発展を遂げたように、アメリカのキリスト教も「土着化」し、ヨーロッパとは異なる独自の発展を遂げた。

 

 政教分離は、日本では政治から宗教の影響を排除することが目的のように言われるが、アメリカではむしろ逆で、宗教が政治から独立して活動することを保証する権利である意味が大きい。実際、政教分離によって宗教各派は、政治の介入をブロックし、自由に勧誘し、お金を集め、独自に発展することが保証された。

 

 自らの努力と神の祝福によって得られた「富と成功」は、アメリカン・ドリームとして正当化される。権威や権力と結びつきやすい一流大学卒のエリート主義への反発から、反知性主義が生まれる。反知性主義は知性を否定するということではなく、知性を権威や権力に使おうとする層への反発である。特に、リバイバル集会と呼ばれる野外で自由に人を集めて演説の上手な巡回説教師が、「神の前ではみんなが平等だ」と訴えることによって、反知性主義は支持を集めてきた。

 

 アメリカの二大政党の党大会は、多くの支持者を開拓してきた宗教の野外集会の伝統に似ている。また、反知性主義の考え方は大統領選挙にもみられ、歴史上何度も、エリート候補が親しみやすい庶民的な支持を集めやすい候補に敗れるということがあった。ジョンソンも、アイゼンハワーも、ブッシュもそうだった。トランプ大統領の誕生も同じ流れとして考えることはできる。そこに、アメリカ大統領選挙代理人制度の問題が絡む。

 

 ポピュリズムは、既存権力や体制への反発と結びつきやすいという点で、反知性主義と相性がよい。ポピュリズムは一種の代替宗教であり、そのため原理主義や、単純な善悪二元論になりやすい。また、アメリカはいつも自国優先(アメリカ・ファースト)だったが、その優先順位は時代によって変わってきた。異端は正統がしっかりしていてこそ、異端でありうる。

 

 現代のアメリカを、キリスト教の土着化という観点で解説している本である。終盤の理論展開には少し飛躍もみられるような気がしたが、宗教という点からアメリカの特質を説明していて、考えさせられた。

 

新書、208ページ、NHK出版、2017/11/8

シリーズ・企業トップが学ぶリベラルアーツ 宗教国家アメリカのふしぎな論理 (NHK出版新書 535)

シリーズ・企業トップが学ぶリベラルアーツ 宗教国家アメリカのふしぎな論理 (NHK出版新書 535)

  • 作者: 森本あんり
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2017/11/08
  • メディア: 新書