著:清原 達郎
最後の公表となった2005年の国税庁の長者番付において、サラリーマンとして初めてトップとなった投資家が、咽頭がんで声帯を失い引退を決めたタイミングで、それまでの全人生で得た株式投資のノウハウを自らの投資人生の歩みと共に綴った本である。
元々は野村證券に入社している。今は生まれ変わってコンプライアンス重視の会社になったと強調しているが、当時の野村證券の営業スタイルがどのようなものであったのかかなり生々しく書いている。当時あまり出世コースではなかったらしい海外投資顧問室に配属。スタンフォード大学で経営修士号(MBA)取得後、86年に野村證券NY支店に配属。91年、ゴールドマンサックス東京支店に転職。その後モルガン・スタンレー証券、スパークス投資顧問を経て、98年、タワー投資顧問で基幹ファンド「タワーK1ファンド」をローンチするというキャリアを歩んでいる。
「投資家はマクロで勝つのは非常に困難だが、ミクロでは勝てるチャンスが多い」と述べる著者の投資顧問会社が成功した理由は、割安で放置されている小型株銘柄を丁寧に探して集中投資することである。大型株も一瞬のスキを見せることはあるものの大型株はフォローしているアナリストが多いのに対して、小型株はそうでもない銘柄が多くある。割安株が多く、独自のリサーチがしやすく、機関投資家があまり持っておらず、カバーしているアナリストが少ない銘柄が多いからである。ただし、いわゆるグロース市場(旧マザーズ)は基本的に避ける。割高な株が多い上に、サービス業種が多くて海外で成長するモデルを描けている会社が少なく、リスクは高いとしている。
指標としてはPBRはあまり重要とは考えていない。一方、PERとネットキャッシュの重要さは強調している。また、小型株は経営者の個性や良し悪しによって大きく変わってくるので経営者についてもきちんと見る。ニトリの創業者など実際に成長期で会った何人かの経営者についてのいくつか面白いエピソードも書かれている。大型株についても、一時期割安に放置されていた時期があったし、かなり投資をしてきたことがかかれている。
中長期投資を目指す個人投資家には基本的に推奨しないとしているが、空売りについてもかかれっている。人気化して割高になり出来高が膨れ上がった株式を狙うなどして、今までどのようなタイミングでどのような銘柄を狙ってきたか書かれている。海外勢の空売りがどのようなものか説明し、「日本の個人投資家は個別銘柄の空売りにおいてっはとても不利な立場にあるわけです」と説明しているところもある。
REITについても日本で始まったときから注視してきておりかなりページを割いている。また、著者はベイズ理論的な考え方を重視しており、投資に応用した例からその重要性を説明している。成功例だけではなく、たくさんの失敗例についても述べている。
個人投資家に対しては、情報収集にカネをかける必要はなく、有料の情報で一番役立つのは「会社四季報」であるとしている。そして、とにかく節約して投資に回せる元手を増やすべきだとアドバイスしている。
自身の後継者がいないということが本の形で株式投資のノウハウを世の中に共有することを決心した理由の一つであるらしい。成功した投資家が、このような形で今までの自分のやってきた方法を公開してくれているのだから、投資に関心のある人は目を通して応用できるところがあれば利用すれば良いと思われる。
講談社、2024年3月1日発売、320ぺージ