著:吉井 理人
プロ野球選手として活躍し、その後投手コーチになった吉井理人氏が、自らの経験と望ましいコーチングについて説明した本。
プロ野球選手時代に試合直前にコーチから言われた一言で調子を崩したときのことをはじめとした選手時代のコーチとの苦い思い出や、今と昔の違い、自身のメジャーリーグでの経験、NYメッツの投手コーチボブ・アポダカに「自分の事を一番知っているのは自分自身だから、君の事を俺に教えてくれ」と言われたことや、監督だったボビー・バレンタインへの思い出と感謝も述べている。
「(昔のプロ野球において)芽が出なかった選手にも、素晴らしい才能の持ち主がいたと思う。メチャメチャな生活とメチャメチャな指導のおかげで、つぶれてしまったのだ。つぶれなかった選手だけが伝説をつくり、それで野球界が成り立っていた。プロを目指す野球選手が少なくなった今、昔のようにはいかない。こんな(昔のような)生活と指導では、野球界は縮小していくだけだと思う」。
自分のミスは本人がよくわかっているので、みんなの前では言わない。コーチは自分の言葉の重みを自覚する必要がある。相手を信頼し、やる気を出させる言葉を使う。コーチは自分の経験に基づいた言葉だけでアドバイスするのは避けるべき。怒るのは、選手が手を抜いたときのみ。指導は、完全に一人ひとりに対してオーダーメイドで対応すべき。クリアすべき小さな課題を設定し、小さな成功を継続的に積み上げていくことで成長のスパイラルを作る。自分のプレーを振り返るようにする。
著者は、大学院で習ったという「スポーツコーチング型PMモデル」に基づき、「育成行動」と「指導行動」の2つを軸に、選手のタイプ別あるいはレベル別に、以下の4つのタイプに分けた指導方針を示している。
1.指導・育成型コーチング:「指導」x「育成」
2.指導型コーチング:「指導」重視
3.育成型コーチング:「育成」重視
4.パートナーシップ型コーチング:観察を基本とし、質問があれば的確にこたえる
良い影響を受けた指導者として、野村監督、仰木監督、権藤コーチ、箕島高校時代の尾藤監督についても語っている。野村監督は配給には「ピッチャー優先」「データ優先」「シチュエーション優先」の3つのパターンがあり、どうしてもデータ通りに投げてほしいときには「俺がすべての責任をとる」と言っていた。
「僕が思い浮かべる究極のコーチ像は、コーチングの結果、選手が何でも一人でできるようになり、はた目から見るとサボっているようにしか見えないコーチだ」。
そもそもコンディションが良くないと選手は結果を残せない。良いパフォーマンスを上げるにはコンディショニングコーチの役割が7割で投手コーチは3割。トレーニング、食事、休養の3つがポイントになる。
コーチングについて、非常にストイックに突き詰めて勉強し、考えてきたことがわかる。コーチは教えてはいけない。上からの力ずくのコミュニケーションはモチベーションを奪う。相手を観察し、話し合うことから始める。答えを教えるのではなく、質問に徹する。そもそも時代は変わるし、人の資質も時代によって変わるから、コーチは学び続けなければならないという。
単行本、279ページ、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2018/11/15