著:石黒 耀
以前、科学雑誌「ニュートン」で、平均して7000年に1回の割合でこの日本列島で繰り返されてきた巨大噴火についての解説を読んだことがある。
多くの人は、わが国で発生する災害としては巨大地震がもっとも深刻なものだと思っているが、そうではない。カルデラ噴火こそが、わが国で発生する可能性のあるもっとも深刻な災害である。その被害の大きさは、大震災どころではない。
前回の巨大噴火のときには、南九州の縄文人が一気に全滅した。現代においてそのような噴火が発生すると、直接の噴火や火砕流によって被害が発生するだけではない。火山灰は全国を覆い、社会インフラは全滅、食糧生産や食料輸送は止まり、道路も鉄道も空路もすべてストップする。通信もすべて止まる。電気・ガス・上下水道も使えなくなる。加えて各地でダムが決壊する。このような状況で生き残れる人は少なく、日本国は消滅に近い状態になる。
被害は日本だけにとどまらない。粉塵は地球を覆い、北半球の気温は一気に下がるため、世界的な食糧危機が発生する。世界的にも日本を助ける余裕は無くなる。
過去の発生周期から考えると、実は、もういつそのような巨大噴火が来てもおかしくない。
いつか、日本はこうなる。それを小説の形で示してくれたのが本書である。巨大火砕流が南九州の都市や街を次々襲い、数百万人単位で人々が次々死んでゆく。通信も交通も寸断され、大規模に援助物資を届けることも救助することも難しい。影響は南九州から次第に広がってゆく。一切の連絡が取れなくなるので、詳しい状況もわからない。電力もガスも水道も食糧も火砕流や火山灰の下に埋まって使えない。円相場は暴落し、経済も崩壊する。日本は文字通り死都と化す。
この小説が小松左京の「日本沈没」と違うのは、縄文時代を最後に間が空いているが、科学的にみれば、日本には今まで何度もこのような巨大噴火が発生しており、周期的には次の巨大噴火がいつ発生してもおかしくないということである。
著者は、日本をはじめ世界各地の伝説には、巨大噴火の悲劇の言い伝えが関連している可能性があると考えているようで、ところどころにそれらの引用もある。
人口が増え、高度に文明化した日本でこんな大噴火が起きれば、こうなるのは必然だろう。だから、これは単なるSFではない。このような日は、必ずやってくる。
著者は医師。小説はこれが処女作になる。火山メフィスト賞、宮沢賢治賞奨励賞受賞作品。
文庫、644ページ、講談社、2008/11/14