密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

奇跡のリンゴ。「リンゴの花が咲いたあと」

著:木村 秋則

 

 「奇跡のリンゴ」として有名になった大ベストセラー、『リンゴが教えてくれたこと』の続編である。

 

 無農薬・無肥料のリンゴ栽培の挑戦。苦労と失敗を重ね、地元の強い風当たりと批判を受けた。役場の農業委員をはじめ人々は、さんざん著者を罵倒してゆく。金策に苦労し、借金は多重債務化。一時は29社のサラ金業者から金を借りていたそうだ。農協の天災融資制度で借りたお金の返済に関して理不尽な理由とやり方で土地を差し押さえられ、競売ではなく税務上不利な任意売却の形で土地の一部を売却させられる。

 

 しかし、リンゴは実り始める。最初のころは小さかった実も、だんだん立派になってゆく。無肥料・無農薬を信じてもらえずまったく売れなかった小さくて形の悪いリンゴも、NHKの「しのびよる環境ホルモン汚染」という番組で取り上げられたことをきっかけに、家の電話が鳴りやまない状態になって売れてゆく。

 

 苦労してつかんだノウハウを惜しみなく提供し、各地に自然農法を広める後継者を育てたい。日本各地はもちろん、韓国、中国、ヨーロッパと飛びまわり、恐ろしく忙しい日々が続いていることは、本書を読めばわかる。精神障碍者の治療のひとつとして、少年院の荒れた少年たちの心に植物を育てる喜びが芽生える。自然農法の普及に力をいれていた各種宗教団体は早くから著者に声をかけてきたそうだ。

 

 稲作にも応用し、有名になり、国内外からの講演依頼が引きも切らない。一方、年齢を重ね、末期の胃がんになって摘出手術も受けている。奥さんも倒れている。熱心に農業指導と講演で各地を回るうち、リンゴ畑が荒れたこともあった。

 

 奇跡のリンゴは簡単ではない。試練の連続だった。最初からうまくいっていたら、簡単だよそんなもの、で終わっていたかもしれない、という。今は答えがわかった。雑草などで土壌を改善し、大豆、麦、野菜を並行して植える。雑草が生える土を作っていけば、種を実らせることができる。自然はいつもあやうい。しっかり観察し、最善の策をとる。作物を育てるのではなく、育つのを手伝うという感覚。土の中に雑草があり、雑草の根には様々な生き物がいて、それらが活動して食糧生産の手伝いをしてくれる。だから、自然栽培の普及は、革命ではなくルネサンスなのだという。著者の人生と様々なエピソードを読みながら、感銘を受けた。

 

新書、216ページ、日本経済新聞出版社、2017/12/9

リンゴの花が咲いたあと (日経プレミアシリーズ)

リンゴの花が咲いたあと (日経プレミアシリーズ)

  • 作者: 木村秋則
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2017/12/09
  • メディア: 新書