密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

Newton別冊『最新iPS細胞』 (ニュートン別冊) (ノーベル医学生理学賞受賞の山中伸弥氏のインタビュー付き)

山中伸弥教授がiPS細胞の作製を発表したのが2006年。2018年にはそれから12年が経過した。本書は、科学雑誌Newtonに掲載されたこの12年間のiPS細胞関連の解説記事や山中氏をはじめとする著名な研究者たちのインタビューによって構成されたものである。ES細胞やクローンES細胞についての記事やインタビューもある。

 

まず、全体を整理すると、2018年の1月時点で研究が行われている幹細胞を用いた再生医療の研究には以下の4つのものがある。

 

1.組織幹細胞:幹細胞を用いた再生医療の方法で、増殖能力は限定的。ただ、ES細胞を利用するときの倫理的な問題はない。骨髄移植はこの一種といえる。

2.ヒトES細胞:受精卵が数回分裂した胚から作成する。ただし、胚は赤ん坊になる過程のものなのでそれを壊して利用することは倫理的な問題がある。またそれを他人に使うときには拒絶反応が発生する。

3.ヒトES細胞:2013年にアメリカのミタリポフの研究チームが作製に成功した。SCNT(Somatic Cell Nuclear Transfer)と呼ぶ卵子の核をのぞき別の体細胞由来の核を移植する技術で作成する。卵子に患者由来のDNAを移植して作るので、拒絶反応の問題を回避できる。ただ、卵子の提供が必要なので倫理的問題が残るうえ、クローン人間につながる可能性がある。

4.iPS細胞:患者本人の細胞から作ることができるので倫理問題がなく拒絶反応も回避できる。(現実的にはカネと時間がかかりすぎるのでHLAホモの細胞ストックを行い利用する)。

 

4種類のヒト幹細胞利用の比較(本誌より。一部編集)

 

組織幹細胞

ヒトES細胞

ヒトクローンES細胞

iPS細胞

増殖能力

組織による

非常に高い

非常に高い

非常に高い

組織や臓器に変化する能力

限定的

非常に大きい

非常に大きい

非常に大きい

移植への応用

直接移植

移植用臓器に変化させる

移植用臓器に変化させる

移植用臓器に変化させる

拒絶反応

あり

あり

なし

なし

ウィルス感染

危険性あり

危険性あり

危険性なし

(自己由来)

危険性なし

(自己由来)

腫瘍への変化

なし

危険性あり

危険性あり

危険性あり

倫理問題

なし

胚の破壊が問題

胚の破壊が問題

なし

 

 ヒトクローンES細胞もiPS細胞も、根幹のメカニズムは同じであろうと考えている科学者は少なくないようだ。どちらも免疫反応の問題に対処できる点も同じである。ES細胞の研究はiPS細胞よりも長いために技術的な蓄積があり、臨床実施例も多い。iPS細胞は、発表当時はウィルスを用いていたのでがん化の恐れがあった。しかし、その後はマイクロRNAやメッセンジャーRNAを用いる新しいiPS細胞の作製方法が誕生している。また、ES細胞の研究の蓄積はiPS細胞の研究でも活用できるものが多くあるという。

 

 研究者のインタビューでは、2種の動物の細胞が混在する「キメラ動物」によってヒトに移植するための臓器や輸血するための血液を作る研究(中内啓光)、iPS細胞から作成した心筋シートを移植する技術(澤芳樹)、iPS細胞で目の網膜の難病を治療する研究(高橋政代)、iPS細胞から骨髄損傷を再生する研究(岡野栄之)、入ってほしくない細胞の混入を防ぎながら中脳のドーパミン神経をiPS細胞だけで作ることに成功しパーキンソン病治療に生かす(高橋淳)、成人細胞を利用したヒトクローンES細胞の作製に成功したロバート・ランザというような人たちが登場する。もちろん、山中教授のインタビューもある。

 

 基本知識として、幹細胞、受精卵、多能性幹細胞、ES細胞、iPS細胞とは何か、といったことも、Newtonならではのビジュアル性の高いイラストを駆使して解説が行われている。

 

ムック、175ページ、ニュートンプレス、2018/2/17

 

Newton別冊『最新iPS細胞』 (ニュートン別冊)

Newton別冊『最新iPS細胞』 (ニュートン別冊)

  • 出版社/メーカー: ニュートンプレス
  • 発売日: 2018/02/17
  • メディア: ムック
 

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