著:岡野 栄之
中枢神経系の再生は極めて精密で、再生が難しいと考えられてきた。本書は、神経幹細胞に着目してその中枢神経系の再生方法についてのとっかかりをつかんだ研究者が、その研究内容について説明した本である。後半では、自らの研究の足跡についても振り返っている。
著者によると、神経回路の再生のポイントは以下の3点になるという。
1.神経軸索の再生→軸索の伸びを邪魔する分子の扱いがカギ
2.神経系を構成する細胞の補充→神経幹細胞がカギ
3.機能回復→リハビリテーション
そして、この3つのポイントを含んだ中枢神経系の再生は、発生現象を再現することにほかならないことがわかってきたという。
内在性の神経幹細胞とニューロンの新生をどう生かすか。著者たちのグループは、アセチルコリン分解酵素阻害薬が成体脳における申請ニューロンを長生きさせることを見出しているという。
細胞移植に関しては、胎児の脳から分離した神経幹細胞を増殖させて利用した治療用の神経幹細胞がアメリカのベンチャー企業によって実用化されているという。慢性期の脳梗塞患者を救うためにも幹細胞移植による再生法が有望視されていて、海外ではそのためにES細胞由来の前駆細胞を用いた細胞移植の臨床研究が試みられている。一方、日本ではiPS細胞を用いた研究が行われており、著者のグループもラットやマウスやマーモセットでの研究の後に、山中伸弥教授の応援を受けながらiPS細胞での試験を行ってきた。iPS細胞のがん化の問題についても目安が得られるようになってきており、脊髄損傷の再生治療を目指した臨床研究に向けての道が開けてきた状況だという。
専門書ではなく、かといって広く一般市民向けというほどでもなく、ある程度理系分野の素養があれば専門家でなくても概要は理解できる、といった内容である。広く一般的に利用されるまでにはまだ時間がかかりそうに思えるが、大きな可能性と意義を秘めた研究であり、今後の進歩を期待したい、と思った。
単行本、128ページ、岩波書店、2016/1/23