著:市来 広一郎
1960年代には年間宿泊者数530万人を誇り日本一の温泉街だった熱海は、その後大きく低迷する。2011年の年間宿泊者数はピークの半分以下の246万人にまで落ち込む。しかし、その後若者を中心に熱海が人気となり、2015年には年間宿泊者数が308万人と急回復する。そんな熱海再生の理由としては、以下のようなものがあるようだ。
1.大型温泉ホテル廃業に代わって低価格で泊まれるホテルチェーンが増えた
2.「安・近・短」のスタイルの変化が東京に近い熱海に有利に働いた
3.2007年以降の団塊世代引退によって熱海に移住する人たちが増えた
4.行政・民間の各プレーヤーの努力と試行錯誤
熱海で生まれ育ち、Uターンで地元再生に力を注いできた著者が、NPOを立ち上げ自ら奮闘してきた活動を中心に熱海再生について語った本。タイトルを見ると誤解するが、著者はあくまで上記の4つのうち、最後の4つ目のうちの活動を民間側で担った一人である。
NPOといっても、補助金頼みにするのではなく、「ビジネスの手法を用いて街を活性化させる」ことを狙う。そうすることで、利益をさらに次に投資するという形で継続的な再生が可能になる。もうひとつのポイントは、「何が街の課題なのか。何が原因なのか」ということを常に考えて仕事をする。
農業の再生として「チーム里庭」を立ち上げる。地元の人が地元を楽しめる体験交流ツアー「オンたま」。遊休不動産を活用したカフェのオープン。ゲストハウスのオープン。街に足りない機能を見つけて事業化する。ゲストハウスのファンではなく、街のファンを作り、お客さんが自然に街との接点を持つようにする。
2か月に1回、熱海銀座を歩行者天国にして開催する「海辺のあたみマルシェ」。民間主導で起業家向けのインキュベーション施設を作る。熱海をクリエイティブな30代に選ばれるエリアにする。行政も変化する。新市長の財政危機宣言など行政側のメンバーや意識の変化。プレーヤーたちの世代交代。
毎回テーマを決めて2か月に1回開催される「ATAMI2030会議」。起業家を生みだす「創業支援プログラム99℃」では、4か月で事業計画をつくり、事業開始のアクションも求める。創業支援によって2030年までに熱海に新しい企業を100社以上誕生させ、数百億円規模の産業を作ることが目標だという。不動産オーナー、家守、起業家といったプレーヤーたちがリスクをとり熱心に活動してゆく。補助金頼みではなく、自主事業の割合が増えてゆく。そうして100年後も豊かな暮らしができる、「何度でも遊びに行く場所」としての本当のリゾートを目指す、としている。
単行本、221ページ、東洋経済新報社、2018/6/1
熱海の奇跡 いかにして活気を取り戻したのか [ 市来 広一郎 ]
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