著:森絵都
「人は自分でも気づかないところで、だれかを救ったり苦しめたりしている。この世があまりにもカラフルだから、ぼくらはいつも迷ってる。どれがほんとの色だかわからなくて。どれが自分の色だかわからなくて」。
なんとも唐突な始まりだ。
死んだ魂が抽選に当たる。
自殺した直後の中3の少年の体で期限1年のホームステイ。
天使のプラプラが、何も知らない魂にこの少年の情報を与え、
魂は勘のいい1人の少女に怪しまれたり、
あまりに複雑な事情を抱えた小林家と学校の知人たちに驚きつつも、
ホームステイを通じていろいろな経験をしてゆく。
そして。。。。
実にいい話しだった。
しかも、読み出したら途中で止められない。
柔らかく、優しさがほのかに漂う文体に救われてはいるものの、
魂が少年の体を通じて放り出される状況の設定自体は、なかなかシリアス。
この作品は、世の中の不条理さ、人間の愚かさ、
といったものを、全くかばっていない。
人生は素晴らしいとか、目的を持って生きるべきとか、
安易に説教じみたことを説いているわけでもない。
なのに、強くたくましいメッセージが最後に読者の心に残される。
ときには目のくらむほどカラフルな世界。
多くの矛盾や、苦しみや、迷いや、絶望や、孤独や、希望の色に、
もみくちゃにされながら、人は皆生きている。
たとえその目的がなんだかわからなくても。
児童文学という枠だけで語るのはもったいない。
見事な傑作。
文庫、259ページ、文藝春秋、2007/9/10