監修:廣瀬 通孝、編集:東京大学バーチャルリアリティ教育研究センター
VR(Virtual Reality)の本。初心者向けの入門書。テーマごとに見開きで、右ページが解説、左ページが図解という構成で、やさしく書かれてある。
現代のVR技術が開花するまでどのような歴史があるのか、どのような原理になっているのか、どのような意義があるのか、どのような技術と組み合わせていける可能性があるのか、といったことが書かれてある。
用途についても幅広く書かれているが、よくあるユースケースをたくさん紹介することが中心になっている本ではない。一般向けだが、研究教育機関が書いているので、目先の事例だけでなく、VRの意義や可能性についても重視して解説されている。
知覚と認知と脳。全天周ディスプレイとHDM。触角は騙されやすい。五感の連携。空間内の動きの再現。実写に基づくイメージベースレンダリング。シミュレーションと対象のモデル化。装着型と接着型がある身体のトレース技術。ルームスケールVRとスタンドアロンVR、空間知覚をゆがめるリダイレクション技術。アバタによるプロテウス効果。モーションキャプチャ(慣性センサー式、光学式、画像処理式)。超臨場感通信。VR酔いとその対策。
AIとの関係。5Gとの関係。ダイナミックプロジェクションマッピング。教育、医学、製品設計、ミュージアム、ゲーム、芸術への応用。感情のコントロールに使えるという説も紹介されている。
印象的だったのは、本物そっくりだけがVRの意義ではないという主張である。本物そっくりであれば、本物の方がいい。VRでなければならない何か、実社会では容易に実現できないことを実現するところにVRによるバーチャル化の意義があるという。そして、そのためには役立てる対象のエッセンスを抽出して仮想化してゆくことが必要になる。ただ、リスクとして、一見ノイズに見えるが重要なことを見落とす可能性があることは考慮しなければならない。
派手で夢を感じるVRだが、ゲーム以外のビジネス分野ですごく広がっているというと、まだそこまでではないような気もする。ただ、依然として大きな可能性を秘めた分野であり、その可能性を生かすアイディアや他の新技術との相乗効果が重要になってくるという認識を持った。
単行本、160ページ、日刊工業新聞社、2019/3/1