密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

ジブリの仲間たち (新潮新書)

著:鈴木 敏夫

 

「映画がヒットするには、3つの要素が必要です。まずは『制作』。内容がおもしろくなければ話になりません。『配給・興行』も大切です。いい映画を用意できなければ、観客数は伸びません。その間をつなぐのが『宣伝・広告』の仕事です。」


 スタジオジブリのプロデューサーが、30年間に及ぶジブリでの自身の仕事を振り返った本。「アニメージュ」の編集者をしながら、『風の谷のナウシカ』の担当をしていた頃のこと。高畑監督からは「宣伝から映画を守る」ことを教わる一方、徳山雅也氏からは「映画を売るには、強引な遣り方が必要なときもある」ということを学んだこと。

 メディアミックス。『天空の城ラピュタ』でのタイアップの問題と映画を商品の直接的なPRに使うべきではないという教訓。糸井重里氏からコピーの重要性を教わった『となりのトトロ』と『火垂るの墓』。配給会社との関係。日本テレビのバックアップの獲得。ヤマト運輸とタイアップした上で、タイトル・コピー・ビジュアルの三位一体がうまくいった『魔女の宅急便』。社員70人の会社として再出発したジブリの第一作目だった『おもひでぽろぽろ』。映画宣伝6つの手段(配給宣伝・制作委員会の自社媒体を使った宣伝・タイアップ・試写会・パブリシティ・イベントとキャンペーン)。全国キャンペーンの開始。

 売り上げ目標を明確に掲げた『もののけ姫』と宣伝総力戦。映画がフィロソフィーを語る時代。お客さんがどう思うかよりも、高畑監督が納得することを優先し、観客が減ることも覚悟してやった『となりの山田くん』。2倍の宣伝x2倍の劇場。コンビニは一種のメディア。カオナシで映画のテーマをストレートに表現した宣伝ができた『千と千尋の神隠し』。想定外の事態に苦労した『イノセンス』。宣伝しない宣伝がうまくいった『ハウルの動く城』。現実に宮崎親子で起きていたことと現代社会の問題が同時に投影された『ゲド戦記』。まず歌をヒットさせようと考えた『崖の上のポニョ』。予告編によってリピーターをつかむ。宣伝におけるデジタル媒体とアナログ媒体のバランス。震災をきっかけに世相が変り、時代が作品に追いつてきてしまった中で作られた『風立ちぬ』。思うようにいかなかった『思い出のマーニー』の宣伝。

 いろいろやってきたが、手段はしっかり選んできたし、やはり映画というのは企画が大事だという。また、宣伝によって増えていった仲間たちのことも書かれている。特に、ポニョの歌をうたうことになった人は、仕事しないのになぜかうまくいく人として何度も登場しており、いいアクセントになっている。

 昨今の時代の変化についても書かれている。最近は、映画は小ぶりの作品を短い周期で回す傾向が強い。多くの人手と予算と長い製作期間をかけて大規模な宣伝を行って世に出すというのは難しくなっているという。一部に「スターウォーズ」のようなイベント化した映画は今でも多くの観客が集まるが、それでも日本では興行収入で100億円を超えるのが精一杯。しかし、そんな中でも、ジブリは新しい動きを模索しているのだという。75歳にして3DのCG作りにはまっているらしい様子にも言及されている。

 いろいろな逸話を交えながら、鈴木流のプロデューサーとしての手法のエッセンスが小気味よくまとめられている。鈴木氏と一緒に仕事をしたことのある宣伝プロデューサーたちの声も収められている。面白かった。

 

新書、304ページ、新潮社、2016/6/16

 

ジブリの仲間たち (新潮新書)

ジブリの仲間たち (新潮新書)

  • 作者: 鈴木敏夫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/06/16
  • メディア: 新書