密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

「超常現象」を本気で科学する (新潮新書)

著:石川 幹人

 

 著者は幽霊の研究をしているが、幽霊は信じていないという。「宗教が『信じる』ことから出発するとすれば、科学は『信じずに距離を置く』ことから出発するという原則」があるからだという。このように、頭ごなしにうさんくさい研究にみられがちなことを十分意識して書かれている本で、心霊現象をはじめとする超常現象を心理学及び超心理学の立場から可能な限り説明しようと試みている。

 「超心理学は長年の研究によって、小さな効果ではありますが、超能力とみられるいくつかの現象を実験的に確認しているのです」とあるように、多くの超常現象は誤認やトリックや心理学で説明可能だが、どうしてもそれでは説明できない、現代物理学では説明できないなんらかの現象が起きていることもあるらしいという。その効果はわずかであり、不正確であり、安定して発揮される現象ではないが、それらは無意識の所産による一種の超能力である可能性が高い、という説明が行われている。

 そもそも、「存在する」というのはその定義が意外にあやふやなものであり、実際には以下の3つの段階があるという。つまり、人間の存在に対する認識は元々現実に完全一致しているわけではなく、不確実なことが多く、現実には近いけれど現実とは少しだけ離れた世界を認識しているだけという見方もできるという。


・心理的存在:個人的に想定した存在(希望や信念など)
・社会的存在:人間集団で了解している存在(文化、制度、法律など)
・物理的存在:人類に普遍的な存在(物体、物理法則など)

 幽霊がいるかいないかは、それだけであれば不毛な議論になりやすい。怪しげな人たちの口実に利用されることもしばしばである。だから、このような対象の研究を進める上で大切なのは、それが何かの役に立つかを正しく問うことだという。実際にはそれが一部の科学者しか確認していない科学現象であっても、それがわれわれの生活に役立つ形で応用されることができれば人はその存在を理解し信じる。だから、超能力の有無の議論や幽霊の研究を進展させようとするなら、それが何の役に立つのか、どういう意味があるのか、という視点を持ちこむことが重要だという。

 このような論点から著者は、超心理学が無意識の領域と密接な関係があることに注目し、ユングの主張した「シンクロニシティ」という仮説を説明したりしながら、「ゾーン」や「フロー」と呼ばれる状態や「セレンディピティ」をはじめとする、創造性を必要とする分野においては、無意識の働きをうまく利用することでもっと人類に役立てることができるようになるかもしれない、今のところ唯一見込みがあるのは創造性であると述べている。いままでの科学は「意識の科学」だったが、無意識の世界の研究には今後大きな可能性が残されているということだ。

 読みやすい本で、特に前提知識は不要である。また、個人的に以前「
科学が歴史上もっとも本気で幽霊に迫った瞬間。「幽霊を捕まえようとした科学者たち」 - 密林の図書室という本を読んだことを思い出した。19世紀から20世紀はじめにかけてノーベル賞級含む一流の科学者たちが勢ぞろいして、おそらく人類がもっとも本気で幽霊を科学しようとした足跡をまとめた本だった。現在一般的に使われている「テレパシー」や「サイコキネシス」といった言葉も、実はそのときの活動から誕生したもので、その研究に加わっていた科学者の一人が、人間にそのような能力があると仮定すれば心霊現象といわれるものはそれでほとんど説明できる筈だと想定して作られた用語である。

 本書を読んで、超常現象の研究そのものは当時からそれほど大きく進展してるわけではないのだなという印象は受けた。かつてのアメリカとヨーロッパで行われた大々的な研究がその後後退していったように、再現性の確保や客観的な測定が難しい上に、世間の好奇の目にさらされたり批判を浴びやすい分野である。著者が考えているように、「無意識の科学」は人類の未来において大きな進歩をもたらす期待はあるが、そうなるにはまだまだ時間が必要かもしれないと思った。

 

単行本、206ページ、新潮社、2014/5/16

 

「超常現象」を本気で科学する (新潮新書)

「超常現象」を本気で科学する (新潮新書)

  • 作者: 石川幹人
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/05/16
  • メディア: 単行本