密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

科学が歴史上もっとも本気で幽霊に迫った瞬間。「幽霊を捕まえようとした科学者たち」

著:デボラ ブラム、訳:鈴木 恵


 科学技術が大発展を遂げた19世紀後半、心霊現象も科学の力で解明しようとする機運が生まれた。まずイギリスで心霊研究会(SPR)が、次いでアメリカ心霊研究協会(ASPR)が設立される。「テレパシー」や「エクトプラズム」といった用語も、この一連の研究から生まれたものである。

  本書は、科学がもっとも本気で幽霊に迫ろうとしたこの足跡を調査して一冊にまとめたもの。著者はサイエンスライター。研究に携わったのは、次のような人たちである。

ウィリアム・ジェイムス:実験心理学創始者
ヘンリー・シジリック:功利主義哲学者
ルフレッド・ウォレス:ダーウィンと共に進化論を発表
レイリー・ストラット:ノーベル物理学賞受賞
シャルル・リシュ:ノーベル生理学医学賞受賞
ウィリアム・バレット:ケイ素鋼を発見
オリバー・ロッジ:検波器を発明
ウィリアム・クルック:タリウム発見と真空放電管発明

 キュリー夫人が降霊会に登場し、エジソンが新聞で意見を述べる。うさんくさい目で見られながらも、一流の科学者たちが集まって心霊現象を科学的に突き止めようとする試みは、世間の一定の関心を集めたことが伺える。

 だが、簡単にはいかない。95%は信頼のおけないデータ。一般の科学者達の否定的な姿勢。 宗教界の反発。 興味本位の報道。 測定や証明の困難。 いかさま霊媒師達による混乱。心霊研究を行う学者を非難し、大学から追放する動きも起こる。幽霊より人間の方が怖いかも、と思う位だ。

 そして、20世紀に入り、中心になっていた学者達が次々死去。錬金術から化学が生まれたように、オカルトに科学を持ち込んで新分野を切り開こうとした意欲的な試みは区切りを迎える。

 かなり面白いが、気味の悪い話が多い上に、翻訳物特有の読みにくさも多少ある。

 物理化学原理に基づく人間意識の研究は、21世紀に入ってもまだ十分なレベルに達していない。より分けて残った5%の謎を科学の力で完全に解き明かすには、もっと関連基礎研究が進むことが必要だろう、と思った。

 

文庫、541ページ、文藝春秋、2010/2/10