著:戸部 良一、寺本 義也、鎌田 伸一、杉之尾 孝生、村井 友秀、野中 郁次郎
有名な本である。1991年出版でありながら、いまだに根強く売れているロングセラーでもある。
ノモンハン事件(1939)、ミッドウェー作戦(1942)、ガダルカナル作戦(1942-1943)、インパール作戦(1944)、レイテ沖海戦(1944)、沖縄戦(1945)の6つを取り上げ、帝国陸海軍の戦略的な失敗とその背景について分析している。要所はきちんと解説されているが、それぞれの作戦について漏れなく細かく説明すること自体を目的にした本ではない。
そういう人はたくさんいるだろうが、個人的に、これらの戦いの本は今まで何冊も読んできたし、どうしたらこんな負けを防げただろうかと考えたことも何度となくあるのだが、読んでいて、改めてため息が出る。どんなに後悔しても時計の針は戻せないし、時代も人も、あの頃とは大きく変わってしまった。
ただ、この本で指摘されているように、現代においても、日本のいろいろな組織がここから学ぶべき教訓は多い。
過去の古い成功体験への固執やそこからくる思い込み。温情主義。主観的な積み上げ方式による戦略策定。現場と本部の指揮・命令決定系統の曖昧さや目的意識のズレ。根回しと腹のすりあわせによる意思決定。属人性頼み。責任の所在の不明確さや信賞必罰の不徹底。構造主義的ではなく集団主義的な組織構造。シングル・ループの学習プロセス。結果より動機とプロセスを重視する評価方針。なによりも自己革新能力の欠如といったような点である。
非常に深く考えさせられるし、よく分析してある。名著といってよい。ただ、ちょっと単純化されすぎているような印象は受ける。
例えば、日本軍が失敗から全く学ばなかった軍隊かというと、実際はそうでもない。例えば帝国海軍の場合、それまでのしばしば中途半端であった攻撃姿勢を改めて南太平洋海戦では徹底的な反復攻撃を行っているし、ミッドウェー海戦での偵察の失敗の教訓を受けてマリアナ沖海戦では緻密な偵察計画を実施している。戦艦大和の3番艦建造は中止されて空母に切替えられているし、すでに時遅しとはいえ、終盤はレーダーの開発にも力を入れた。大艦巨砲主義と言われるが、途中からは空母と航空戦力増強の方に心血を注いでもいる。
帝国陸軍の場合においても、米軍の戦法を研究した掘栄三の助言を受けて中川州男大佐率いるペリリュー島守備隊がそれまでの戦術をガラッと変更した洞窟陣地を駆使した戦いで大善戦している。その持久戦法は近年有名になった栗林中将率いる硫黄島守備隊にも引き継がれている。
一方、米軍の方も本書に一部言及されているように、陸軍のマッカーサーと海軍のニミッツの方針には大きな違いがあったし、幾多の間違いをしている。
結局は、日米の国力の違い、保有する資源や工業力及び技術力の違いといった点が決定的に大きかったし、泥沼の日中戦争から勝ち目のない太平洋戦争にいたる暴走のメカニズム自体が本当の失敗の本質だったといえるだろう。
もっとも、大筋では本書の指摘は間違っているとはいえないし、国の命運をかけた戦いの中で明らかになった教訓から現代に生きるわれわれが学ぶべきことはけして少なくない。
文庫、413ページ、中央公論社、1991/8/1