密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

嘘だらけの日独近現代史 (扶桑社新書)

著:倉山 満

 

 「嘘だらけシリーズ」の完結編。このシリーズはすべてそうだが、著者の毒舌調の解説が特徴で、本書でもそれは随所に出ている。もっとも、日本との関係ということでいくなら、この本以前の日米・日英・日中・日露でも指摘されている重複している点が結構多い。

 また、「日独」となっているが、実際に日本との関係が出てくるのは半分近くになってからである。実際、三国同盟を結んではいたが、日本とドイツが蜜月だったのはそのわずかな期間だけ。イギリスとのように日英同盟を長く結んでいたわけではないし、アメリカのように黒船襲来から現代まで様々な関係があったわけではないし、ロシア・中国のように隣国でもないし、韓国のように隣国であると同時に日本が支配していた歴史が今も火種のようになっている関係でもないし、フランスのようにジャポニズムや現代の漫画にいたるまで相互に文化的な影響が強くあったわけではない。

 本書のひとつのポイントは、日本がドイツと直接大きく関係したのは2つの大戦のときくらいだが、ヨーロッパの大国だったので、ドイツ・オーストリア・フランス・イギリス・ロシアのヨーロッパでの力関係が、地球の反対側の東アジアにも影響を及ぼしているということを、比較的細かく見ていること。日本の政治家や外交官に対する評価も、そこを大きく見ている傾向がある。

 

 ただ、会社化してアシスタントもつけて校閲もした、ということだが、間違いもいくつかある。例えば、「日米のミッドウェー海戦はいまだに世界史上最大の海戦です」とあるが、ミッドウェー海戦は、参加艦船・航空機数・作戦領域のいずれをとっても世界史上最大の海戦ではなく、連合艦隊の総力を文字通り結集しながら日本がなすすべなく一方的に惨敗したマリアナ沖海戦・レイテ沖海戦の方が規模は大きい。ミッドウェー海戦では帝国海軍連合艦隊は「Z旗」を掲げていないし、真珠湾攻撃に参加した6隻の主力空母のうち翔鶴・瑞鶴が参加していない。アメリカ海軍にいたっては真珠湾攻撃でやられた残存艦船を寄せ集めた戦力であって、工業生産力をフル活用して最新空母・艦船・航空機を次々と完成させて大量投入していった昭和18年後半以降の時期の戦力に比べると大した規模ではない。

 大日本帝国がプロイセン・ドイツ憲法を規範にしたこと関する、「そもそもプロイセン憲法もドイツ憲法も、イギリス憲法を規範としているので、イギリス憲法とプロイセン憲法の二択自体がナンセンスなのです」という説明もおかしい。なぜなら、イギリスは、そもそもプロイセンや大日本帝国のような憲法を持たない国だからだ(単一の成典化された憲法はイギリスには現在も存在しない)。江戸時代から明治時代に突入し一気に西洋文明を取り入れた当時の日本は国内外に文明国であることを示すためにきちんと成典化された憲法を必要としたので、立憲君主制のヨーロッパの大国の中で、イギリスではなく成典憲法を持つ方のプロイセンの憲法を参考にしただけのことである。

 このように、このシリーズは、切れ味は鋭くて、時々はっとする視点はあって、読む価値自体はあるし、なんだかんだと私は全部買って読んでいるが、独自性を出そうと無理な解釈や説明もあちこちにみられる。あくまで、そういうものと割り切って楽しむには良い本である。     

 

新書、330ページ、扶桑社、2018/7/1

嘘だらけの日独近現代史 (扶桑社新書)

嘘だらけの日独近現代史 (扶桑社新書)

  • 作者: 倉山満
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2018/07/01
  • メディア: 新書