密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

アメリカの農業が抱える問題。「本当はダメなアメリカ農業 」

著:菅 正治

 

 面白そうなタイトルだったので手に取った本。最近のアメリカの農業で問題になっている話題をいくつか取り上げた本。

 

 国連食糧農業機関(FAO)の統計によると、2014年時点での米国の農業生産額は2526億1043万ドルで、中国とインドに次ぐ第3位。全体の76%がトウモロコシなどの作物で、残りが畜産。農産物輸出に限ると、世界トップ。

 ちなみに、1991年から2014年までの23年間で、アメリカの農業生産額は2.7倍、中国は8倍以上、インドも3.8倍と急増。ちなみに、農業生産額上位10各国の中で減っているのは8位の日本だけで、しかも2割以上も減っている。これはコメの生産額が落ち込んでいるせいだという。

 

 米国農業はトウモロコシと大豆の存在が大きい。トウモロコシと大豆から作られる大豆ミールは安い飼料として国内の畜産業の価格競争力を支えている。トウモロコシはガソリンへの混合率が10%前後に達しているバイオエタノールにも使われている。大豆は半分が輸出されており、大半が中国向け。小麦は作付けの減少が続いている。3大作物に続くのが綿花である。

 

 アメリカで生産されるトウモロコシ、大豆、綿花は9割以上が、遺伝子組み換え(GM作物)。しかし、GM作物には逆風が吹いている。オーガニックブームもこれを後押ししており、輸入も増えている。特定の除草剤への耐性を持ったGM作物の普及が、その除草剤への耐性を有したスーパー雑草の登場と増加を生んでいる。それに対して、各社はさらに強力な除草剤とGM作物のセットを販売している。

 ミツバチのコロニーの死滅率が高くなっており、その原因としてネオニコチノイド系殺虫剤が疑われている。食肉工場や畜産場への抗議や苦情や反対運動。抗生物質の乱用問題。平均58歳となった農業人口。移民問題と農業との深い関係。農家に多い自殺者(4倍)と薬物依存症。

 

 真面目にまとめられている。「本当はダメなアメリカ農業」は誇張が過ぎるタイトルのように思うが、アメリカの農業が抱える問題のいくつかはわかる。アメリカの農業を支える地下水層の水位低下問題なども取り上げてあればよかった。

 

新書、208ページ、新潮社、2018/6/14

 

本当はダメなアメリカ農業 (新潮新書)

本当はダメなアメリカ農業 (新潮新書)

  • 作者: 菅正治
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/06/14
  • メディア: 新書