著:岡崎 慎司
「優勝はうれしい。すごくうれしかった。けれども、達成感はない。奇跡のシーズンを終えたとき、僕にあった感情は『怒り』や『悔しさ』だった。誰かに対して怒っている、というわけではない。もっとうまくなりたい、周りに認めさせたい、いつかヴァーディのような存在になってやる……。怒りや悔しさとはその原動力となるエネルギーのようなものだ」。
イギリスはブックメーカーが様々な対象に倍率をつけて賭けを販売している。「ネス湖のネッシーは存在した」のオッズは501倍、「宇宙人が2017年までに見つかる」のオッズは1001倍。それに対して、プレミアリーグに所属するレスターが優勝するというオッズは5001倍だったそうだ。
このように、シーズン前にはありえないとみなされていた奇跡を起こしたチームでレギュラーを務めた岡崎慎司選手が、移籍の経緯や、レギュラー争い、優勝までの軌跡や葛藤を語った本。
レスターが戦った公式戦全試合やチームの雰囲気やエピソードを、岡崎選手自身のことを中心に振り返っているし、監督のラニエリの采配やスタイルやチームメートたちの凄さ、選手たちの普段の交流様子や、優勝の瞬間をヴァーディの家に集まってTV観戦してみんなで歓喜した瞬間のことも書かれてある。
ワールドカップをはじめ国際大会で通用するフォワードになるためにトップレベルの選手たちと競り合うことができるプレミアリーグへの移籍を求めたこと。レギュラーを確保するために、けがをしてもトレーナーに報告せずに試合に出たこと。厳しいレギュラー争いの中で、献身的な守備を行うセカンドストライカーとしてのアピールに活路を見出したこと。ラニエリ監督とザッケローニ監督の類似点。パワーアップを目指した肉体改造。スタメン落ちとそこからの復活。献身的な動きが生んだ守備的な選手というレッテルと得点へのこだわり。
FWのヴァーディやMFのマフレズといった点取り屋。モーガンとフートのセンターバックと堅実な守備。セーフティーなプレースタイルからの脱却の試み。それほど出場機会がなかった選手の支え。クラマリッチの移籍。レスターの好調を生み出した適材適所の選手起用。ゴールシーンの映像を何百回も繰り返して見て悦にいったというニューカッスル戦のバイシクルシュート。家族。よくピッチで倒される理由。
レギュラーではあったが途中交代が多かったことと、リーグ戦で5点にとどまったこともあり、何度も悔しさを味わい、どうすればいいか考え試行錯誤を重ねた1年であったことがよく伝わってくる。前向きにいろいろなことを教訓としてプレーし、その献身的なプレースタイルがイギリスで称賛されていたが、岡崎選手自身は、次のように自分の気持ちを吐露している。
「レスターというチームは大きなことを成し遂げたけれど、僕が何かを成し遂げたわけではない。目指す頂きははっきりと見えている。そこに昇るための手段も分かった。けれども、そこに辿り着くことが、できなかった」。
とても素直に書かれている。また、あくまでも岡崎選手の話が中心ではあるが、結果としてレスターが起こした奇跡を中心メンバーが振り返った貴重な記録のひとつにもなっている。何より、ハイレベルな争いの中でプレーした岡崎選手のモチベーションの高さ、ひたむきな前向きさ、たくましさがよく伝わってくる本だった。現在行われているロシアワールドカップでも、途中出場ながら献身的なプレーで貢献しているが、この本を読むと、泥臭いプレーをいとわずギリギリのところで戦う岡崎選手のモチベーションの高さがよくわかる。
新書、240ページ、ベストセラーズ、2016/6/9