編集:篠田 謙一
日経サイエンスの過去の記事から、人類の進化に関する記事を集めて一冊に編集したものである。特にDNA研究が人類学においてもたらした劇的な成果を数多く盛り込んであり、少し古いものも含まれているが、なかなか面白い内容だった。
ヒトとチンパンジーの祖先が分かれたのは600〜700万年前。これは現時点で最も古い人類の化石であるサヘラントロプスの存在時期とほぼ重なる。ホミニン(絶滅したものを含むヒトの系統すべての呼び名)の進化系統は複雑に枝分かれしている。有力な化石がまとまって出ていることから、現生人類を含むホモ族のふるさとは東アフリカではなく南アフリカにあるという説もある。インドネシアで見つかったフロレシエンスの衝撃。
ネアンデルタールは私達と同等の認知能力を持ち、ペイントを塗ったり、ペンダントをしていた。またネアンデルタール人の絶滅の原因のひとつとして、カロリー消費が大きかったことが挙げられている。ちなみに、ヨーロッパとアジアの人のゲノムには、ネアンデルタール人由来のものが数パーセント含まれているし、現生人類は出アフリカ後に、ホモ・エレクトスなどの先行人類とも交配していたと考えられる。そして、このような交雑が、人類の生存に大きな役割を果たした可能性がある。さらに、現生人類の遺伝的な多様性は非常に低いことから、ホモ・サピエンスは初期の時代に極端な人口減少を経験したことが推測できる。
ヒトとチンパンジーのDNAの99%は同じ。しかし、その違う1%には、脳で強く発現して大きな大脳皮質を作るとされるHAR1、発話を可能にしているFOXP2、でんぷんの消化を促進するAMY1、脳の大きさをコントロールするASPM、手の器用さを生み出すHAR2が含まれている。また、PtERVIという大昔のウィルスの遺伝的な証拠から、400万年前に、ヒトとゴリラとチンパンジーの共通の祖先にこのレトロウイルスが大流行したことがわかる。ヒトが無毛になった理由については体温調節の面から考察されている。
日本人の起源についても書かれている。日本人のハプログループを見ると、一目瞭然でアジアのいろいろなところから入ってきているのがわかるという。また、東アジアの他の地域と見比べてみると、女系で伝わるミトコンドリアのハプログループの分布と、男系に伝わるY染色体の分布の傾向に違いが見られるという。具体的には、ミトコンドリアだと東アジアの北の地域の人と似てくるが、Y染色体では日本人だけYap+というハプログループが多い。これは、女性と違って男性は多くの女性を通じて短い時間に多くの子孫を残すということが可能であるためにY染色体は社会の状態の影響を受けやすいことが影響していて、大陸側ではそのようなことが何度も起こった可能性があるという。だから、チンギス・ハンのDNAを持つ現代人は1600万人いるという研究成果もあるそうだ。
ムック本、160ページ、日本経済新聞出版社、2013/10/22
化石とゲノムで探る 人類の起源と拡散 (別冊日経サイエンス194)
- 作者: 篠田謙一
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2013/10/22
- メディア: ムック
- この商品を含むブログを見る