密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

雪の結晶は、似ているものはあっても、全く同じ形と大きさのものは2つと無い。「雪の結晶: 小さな神秘の世界」

著:ケン・リブレクト、訳:矢野 真千子

 

 雪の結晶は、似ているものはあっても、全く同じ形と大きさのものは2つと無いという。実際、星形ひとつとっても、成長の分かれ道になるポイントは100くらいあるからその組み合わせは膨大な数になる。六角形、針形、矢じり形、毛虫のような形、十二枝、つつみ形の段重ね、二重板、雲粒つきと、本当にいろいろな形があることに驚かされる。

 雪の結晶に魅せられたアメリカのカリフォルニア工科大学物理学教授が書いた本。とにかく、多彩な雪の結晶の写真が美しい。あっという間に消えてしまう小さな雪の結晶を、どうやって集めてこんな風にきれいに撮ったのか不思議になるが、最後の章でちゃんと撮影のノウハウと苦労が公開されている。

 雪は水からではなく水蒸気が液体の段階を経ずに直接個体になったもので(昇華凝結)、このときの条件によって雪の結晶の形はバラエティに富んだものになる。その形は特に温度と湿度の相関関係に大きく依存し、1930年にこの法則を発見した日本の中谷宇吉郎にちなんで中谷ダイヤグラムとも呼ばれている。われわれが雪の結晶ですぐ思い出す大きくきれいな樹枝形は、-15度周辺で過飽和量が0.2から0.3(g/m3)くらいの条件で出来やすいようだ。

 結晶の成長過程は面の成長と樹枝の成長のバランスに負う。結晶が小さいときには周囲の水分子は周囲の空中すぐ近くに均等にあるのでゆっくり安定的に平らな面を作り、シンプルな六方晶となる。

 しかし、結晶が成長を始めると周囲の水分子が足りなくなって一時的に不均等が生じ、こうなると中央よりも角の方がわずかに水分子をとらえやすくなる。平面の中央部を埋める速度が突起部の成長についてゆけなくなり枝は周囲に伸びる。

 そして突起ができると、水分子は突起の先の方がくっつきやすくなるので(形態の不安定性)、突起部は平面部に比べて成長が早くなる。雪の結晶の複雑さはこの形態の不安定性のおかげである。このように結晶周囲の湿度の微妙な変化が大きく作用する。

 結晶は薄いものが多い。典型的な星型の結晶では、厚さは直径の100分の1しかないという。結晶の表面にさらに雪粒がつくこともある。成長の過程が途中でとまったり、いびつなものもたくさんある。むしろ、そのようなあまり写真映えのしないものの方が実際は多いようだ。

 一方で、大変低い確率でしか見つからないが、まるで王冠のような、豪華で立派なものもあり、これが自然にできて降ってきたとは信じられないくらいだ。

 オールカラー。薄い本だが、小さく、はかない雪の結晶のとりこになった著者の気持ちが、少しわかった気がした。

 

単行本、111ページ、河出書房新社、2014/10/6

雪の結晶: 小さな神秘の世界

雪の結晶: 小さな神秘の世界

  • 作者: ケン・リブレクト,矢野真千子
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2014/10/06
  • メディア: 単行本