密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものと考えており、このブログを立ち上げました。日々読んできた本の備忘録を兼ねた書評と内容の概要紹介及び読書感想をまとめたブックレビューのブログです。過去に別名でAmazonのレビュー欄に掲載したものとそちらには未掲載のものがあり、後者は「Amazonレビュー欄未掲載」タグをつけてあります。

楽しく学べる「知財」入門

著:稲穂 健市

 著作権特許権実用新案権意匠権、商標権。知的財産について解説した本。著者は、「変わった発明を探し出すエキスパート」を自任している弁理士。ちなみに、著者によると、「弁理士」は、「弁護士」や「便利屋」とよく間違えられるそうだ。

 著作権は登録は不要。関係するものに、著作者人格権著作隣接権がある。思想や感情とは関係がない事実・データは著作物ではないし、形になっていないアイディアや、単なる三角形のようなありふれた表現も著作物ではない。

 著作権侵害の要件の判断は、「依拠性」と「類似性」である。似ていても、一方の存在を知らずに創作したものは問題がない。ちなみに、玩具のような量産できる実用品は、著作権ではなく、意匠権で保護される。よって、三越の包装紙は洋画家の作品を元にしているので著作権があるが、高島屋の包装紙は最初から包装紙としてデザインされているので意匠権のみで保護されるという違いがある。

 また、著作権には複製権、翻訳権、上映権、展示権など様々なものがある。ただ、現実的には判断が難しく裁判になるケースが多くあり、興味深い判例がいくつか紹介されている。写真は肖像権にも注意を払う必要がある。

 一方、公表された著作物を引用することは一定のルールの下で認められているし、写真の背景に小さく映り込んだものは2012年の法改正で原則自由に使えるようになった。

 商標権は、著作物のような創作物ではなく、選択物である。だから、「CROWN」とか「AEON」のようなものでも商標になっている。分野が違えば似たような商標でも認められ、「SMAP」とは別に「S-map」「住まっぷ」が存在する。

 ただし、著者権と違って、商標権は申請して審査を受けて登録する必要がある。著名人は名前を商標登録しており、「小泉今日子」「長嶋茂雄」「加護亜依」といった商標がある。ただ、商法もまた権利侵害の判断には難しいものがある。一度登録された「KUMA」の登録商標はプーマ社の無効審判請求が認められて無効とされた。「SHI-SA」の商標は、特許庁知財高裁でほとんどケンカのように判断が割れた例だが、こういう場合は知財高裁の判断の方が優先される。

 特許は自然法則を利用していることが前提になる。したがって、超能力や霊力を用いたものは排除されるし、永久機関も登録できない。人為的な取り決めであるゲームのルールや経済法則も対象にはならない。また、進歩性と新規性が必要である。審査請求料は最低でも12万円する。ちなみに、日本で登録されている約135万件の特許のうち半数は使われていないという。

 具体例が多い。「面白い恋人」をめぐる和解の話なども載っている。また、著者は、「変わった発明を探し出すエキスパート」だけあって、黄金風呂の特許が申請されればその旅館に出かけていって入り、本来女性向けに売られている「フェイスアップクリップα」を注文して試し、業務用の大きなサイズのものしかない「スノーマン冷凍とろろ」を注文して何とか食べきるというように、自らいろいろ調べ、試してもいる。

 また、いろいろなところに質問状を出してその回答を載せているのも、この本の特徴である。メリー喜多川氏にはSMAP登録商標や早変わり舞台衣装の件で質問状を送る。鳩山幸氏には質問状を送り、鳩山会館に招待されている。大量の商標登録を行った弁理士に関して特許庁の見解を聞く。ぺこちゃんと昔アメリカの雑誌に載っていた女の子の絵との類似性について不二家に質問状を送り、東京ドーム、大塚国際美術館東武ワールドスクエアなどにもいちいち問い合わせをして回答を集めて紹介している。

 知的財産を尊重する考え方は、わが国でも近年ずいぶん浸透してきたが、著者が述べているように、認知度が高まっているからといって理解度も深まっているかというと必ずしもそうではない面はありそうだ。音符の数は限られているから中には似たメロディーが生まれることはあるだろう。デザインも例えば26文字しかないアルファベットをモチーフにしたもの同士で似たものが出てくることはありえるだろうし、歴史に名を遺す発明や文化作品には他からの模倣が出発点やヒントになっているものも少なからずある。

 そもそも、知的財産に関する法律は、権利者の権利を守るという側面と同時に、利用してもよい範囲を明示しているという側面もある。著者によると、世間で炎上した2020年東京五輪用として一時採用されたエンブレムも、法的には最終的にOKとなる範囲だという。とはいえ、それぞれの知財の種類によって考え方やルールは異なるし、保護と利用のバランス、どこまでならセーフでどこからがアウトか、結構難しい。

 また、本来パブリックドメインであるものに対して各所で様々な理由をつけて権利主張や課金が行われている現状は、考えさせるものがある。著者が期待しているような1億円以上の印税と新書大賞を狙える本かどうかはともかく、知財の重要さが強く意識されるようになった現代において、なかなか有意義な内容の本だった。

 

新書、296ページ、講談社、2017/2/15

 

楽しく学べる「知財」入門 (講談社現代新書)

楽しく学べる「知財」入門 (講談社現代新書)

  • 作者: 稲穂健市
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/02/15
  • メディア: 新書