密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

「宇宙戦艦ヤマト」の真実

著:豊田有恒

 

 「宇宙戦艦ヤマト」(以下、ヤマト)は、例えば「銀河鉄道999」のように、マンガの原作があったわけではない。本書は、「ヤマト」の基本ストーリー設定の作成を担当し、作品の監修も行った著者が、プロデューサーの西崎義展との関係を中心にその魅力と問題点を数多く指摘しながら、「ヤマト」について語ったものである。「鉄腕アトム」「エイトマン」にかかわったときの思い出や手塚治虫の人柄、「日本沈没」の小松左京などについても回想している。

 「ヤマト」の発想は「西遊記」をベースにしたものだという。著者の原案の時点ではヤマトではなく内部が居住空間になっている小惑星のようなものだった。西崎義展は同じ高校の出身で会ったときから話が合ったし、人たらしなところがあって、西崎がいたからこそ「ヤマト」は世に出た、と強調している。

 しかし、著者は、西崎によって、裏番組の原作者でもあったことを理由にクレジットから名前が外され、続編も含めて約束した金額のお金はもらえなかった。西崎は、著者や松本零士といったクリエイターへのリスペクトに欠け、知的財産への考えがしっかりしていない時代であったともあり、手柄をひとり占めにしてしまうところがあった。豪遊で湯水のようにカネを使っていたことも振り返りながら、角川春樹とはそこが違うと強く批判している。

 一方、松本零士とは戦争中の武器などで話が合い、西崎と松本の間の著作権の裁判でも著者は松本側に立っている。宮川泰の音楽や佐々木いさおの歌についても高く評価している。

 こう書くとただの暴露本のようにも思えるが、実際は著者がそれぞれのアイディアをどういうところから思いついたのか、ということもいろいろ説明されている。「見てもいないものを、見てきたように話すためには、それなりの工夫がいる」として、「エクストラポレーション」の話をしているところなどは印象に残った。例えば、中国の宦官をベースにSFに登場させるサイボーグの心理を考えて設定する、といったことをしていたそうだ。

 「宇宙戦艦ヤマト」シリーズの舞台設定が誕生した裏話と同時に、クリエイターとしての発想力の片りんに具体的な形で触れることができて、おもしろかった。

 

新書、224ページ、祥伝社、2017/10/1

 

「宇宙戦艦ヤマト」の真実 (祥伝社新書)

「宇宙戦艦ヤマト」の真実 (祥伝社新書)