密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げました。日々読んできた本の備忘録を兼ねた書評と内容の概要紹介及び読書感想をまとめたブックレビューのブログです。過去に別名でAmazonのレビュー欄に掲載したものとそちらには未掲載のものがあり、後者は「Amazonレビュー欄未掲載」タグをつけてあります。

スポーツアナウンサー――実況の真髄

著:山本 浩

 

「スポーツは、勝利を目指してエネルギーを動きに転嫁する行動の連続だ。実況の基本中の基本は、エネルギーのベクトルの変わる瞬間に、ベクトルの起点にことばでピンを打ち続けるところにある」。(本書より)


 本書の著者の山本浩アナウンサーの実況は好きだった。特にサッカーの試合の中継はうまかった。その記憶があったので、手に取った本である。

 言葉でピンを打つ。目を耳を翻訳する。即時描写力。録画した映像素材の準備をはじめ、技術、編集、リポーターと多くの人が必要となり、それを統率するディレクターの役割が重要になった現代の実況中継の舞台裏。

 重要な事前の準備と打ち合わせ。大切だがあてにならないこともある事前取材。近年のスポーツ中継で欠かせなくなってきているEVSというシステム。ビデオ映像技術の進歩でアナウンサーには立ち止まって時間をさかのぼることも要求されるようになった。オフチューブと呼ばれる映像モニターを頼りにする中継方法での注意点。

 解説者との連携。あいづちはポイントだけにして解説者の話を視聴者に届ける。競技によるリズムの違いを理解して生かす。プレーの濃さを見極める。数字の操り方。取材の基本は見ることと、人と言葉を交わして信頼関係を結び適切なタイミングに適切な質問をすること。スポーツによって異なるドラマのパターン。

 7つの基本原則(実況描写、情報提示、分析、予測、質問、会話、つなぎ)。リズム・温度・時間。特に著者の定評の高かったサッカー実況の仕組み。試合がスローダウンしているときには個々の選手に焦点をあわせてみる。

 インタビューは、インタビューアが聞きたいことを聞くのではなく、放送を見聞きしている人たちが聞きたいことを聞き出すようにし、熱いことから話してもらうようにする。

 TVで見ているだけでは気づかない裏側の苦労も含め、長年の経験に裏打ちされたよい実況をおこなうための知恵やエッセンスがちりばめられていて、興味深く読める。

 ただ、加茂周サッカー元日本代表監督や、オリンピック中継でのハプニングなどいくつか載ってはいるが、個人的には、もっといろんなエピソードを期待していたので、その点では少し物足りなかった。

 

新書、208ページ、岩波書店、2015/10/21

 

スポーツアナウンサー――実況の真髄 (岩波新書)

スポーツアナウンサー――実況の真髄 (岩波新書)