密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

毒があるのになぜ食べられるのか

著:船山 信次

 

 主に食べ物に含まれる主に有機化合物の毒について紹介した本。天然のものが多いが、化学物質についても一部にある。

 また、腐敗などによって生じるものや、病原菌、ウィルスについても解説している。科学的に実証されている薬との組み合わせについても言及されている。

 ナスやホウレンソウには結石の原因となるシュウ酸が含まれている。ワラビにはプタキロサイド、フキノトウにはフキノトキシンという発がん性物質がふくまれ、あく抜きが必要である。

 ジャガイモは芽に毒があるだけでなく、緑色に変色した皮にも有毒アルカロイドが含まれているので取り除く必要がある。

 カフェインは多量に摂れば猛毒になる。チョコレートは犬にやると危険である。深海魚のアブラソコムシやバラムツの脂は人体で消化されないワックスなので食用が禁止されている。

 細菌やウィルスに汚染されたものを食べることによる中毒にも要注意だ。病原性大腸菌、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌、ウェルシュ菌、ノロウィルス、ロタウィルス、サポウィルス。

 カビが深刻な被害をもたらすこともある。ピーナッツや豆やコーンに付着するアフラトキシン、ヨーロッパの中世においてペストやコレラと並んで恐れられた麦角病をひきおこすバッカク菌の害も強烈だ。

 貝類は植物プランクトンの一種や細菌などで食中毒を引き起こすことがあり、加熱しても毒性が消滅しないものがあるようだ。

 ホタテは夏ごろに毒化するので英語でRのつく月である9月から4月が大丈夫だといわれる。赤身の魚もヒスタミン中毒をおこすことがある。

 ボツリヌス菌は酸素があるところには存在できないので密閉された加工食品で繁殖する。

 はちみつは栄養が豊富だが、花の中には蜜に微量の毒を含むものがあるので幼児に与えるのは避けたほうがよい。

 

 農薬の汚染が食物連鎖の上位にいる生物に蓄積する場合もあるし、ユッケや生レバーは食中毒事件の後に生食が禁止になった。医食同源についての解説や、世界4大矢毒の紹介もある。

 世の中では、時々、「天然由来の成分」「自然の恵み」などというような表現を見かけるが、自然のものだからといって必ずしも体によいというわけではないのだな、ということが、この本を読むと実感としてわかる。

 よく考えればそれは当然のことである。なぜなら、動物たちに種を運んでもらわなければならない果物はともかく、多くの自然の植物はなるべく虫や動物に食べられないように進化してきたわけで、少しでも食べられないようにするために苦みや渋みや毒を体に蓄積することで自らを守るように進化してきたのだ。

 細菌や寄生虫やウィルスだって、動物や魚介類にとりついて生きながらえてきたわけで、自然のものだから安心、などというのは単なる誤解であることが本書を読むとよくわかる。

 その一方で、我々の祖先は、あく抜きをしたり、発酵させたり、加熱したり、危険な部分だけ取り除いたりと、様々な工夫をして自然の恵みとつきあってその恩恵を受ける方法を見つけ、上手に栄養源にしてきた。

 例えば、オコゼのとげは毒があるが、加熱で壊れるので唐揚げなどにして食べられる。フグの毒がある卵巣をぬか漬けにした「フグのへしこ」というものがあるのには驚いた。また、ヒガンバナに含まれる有毒アルカロイドのひとつのガランアミンがアルツハイマー型認知症の薬となったように、多量にとれば毒であっても微量であれば薬になるというものも当然ある。

 一般的な読み物ではあるが、構造式も多く添えられている。また、巻末には参考文献の一覧がついている。われわれは毎日いろいろなものを食べて生きている。毒にも薬にもなる食べ物との付き合い方について考えさせてくれる内容で、地味ながら面白い。また、知っておいて損のない知識を提供してくれる本でもある。

 

新書、256ページ、PHP研究所、2015/2/14

毒があるのになぜ食べられるのか (PHP新書)

毒があるのになぜ食べられるのか (PHP新書)

  • 作者: 船山信次
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2015/03/20
  • メディア: Kindle版