著:呉 善花
本書は、李朝末期の朝鮮の歴史をまとめたものである。日韓併合はその終着駅である。この頃の朝鮮半島の歴史を扱った本、特に韓国人が書いたものは歴史に関しての複雑な感情が絡んで情緒的な解釈が目立つものもあるのだが、本書は比較的冷静に書かれている点に特徴がある。
長い歴史を持つ李朝が、以下のような点で、完全に末期症状になっていた様子がよくわかる。
- 両班の増大
- 硬直しすぎた中央集権
- 縁故主義の蔓延
- 派閥のいがみあい
- 行き過ぎた文人優位
また、日本と違って朝鮮は清の属国でその支配下にあったことも、大きな足かせになっていたことがわかる。
そのような背景において、帝国主義が席巻していた世界の中の当時の朝鮮は、機能不全に陥ったまま、清、ロシア、日本に文字通り翻弄されてしまったといえる。この三国の勝者が朝鮮半島を勢力圏に収めたのは時代の流れだったという見方もできるだろう。
また、この本を読んで、ひとつ考えを改めたことがある。
それは、明治維新後の近代日本史をより深く理解しようと思うと、日本列島だけで発生したイベントだけを追っていても十分ではないな、ということである。
当時の日本をより正確に理解するようにしようとするなら、現在われわれが概念として持っている日本の枠よりも少し地域を広げて見てみた方がいい。そうすることで、アジアにおいて日本の置かれた状況と日本の外交姿勢の変化及び内政の変化の意味がよくわかるからだ。
また、李朝がたどった運命と、そうならなかった日本の違いはどこにあったのかということも思わず考えてしまう。
日本や中国やヨーロッパの歴史に比べて朝鮮半島の歴史は多くの日本人にとってなじみがあるものではないが、そのような意味でも本書は一読の価値があるように思われる。
単行本、293ページ、出版社、文藝春秋、2012/7/20