著:藤木 久志
日本の中世の百姓たちの行動と村の内実を、様々な古文書の記述から推測したもの。今までの常識に異を唱えているところもある。中世の村のしくみについて基本から系統立てて説明している本ではなく、ある程度中世の村と支配体制についての基礎知識を持った人向けの内容であるといえる。
人身売買は本来重罪だが、飢餓のときには、貧しく飢えたものを買い取って養育して奴隷にすることは仕方が無い。
百姓が村を棄てて他所へ逃げることは許されないが、その年の年貢を納めた後であれば大目にみてもよい。
領主が変わると動揺が走り、村人が逃げ出すことは珍しくなかった。誰かが村から追放されたり死罪となった場合の遺産の扱い。捨てられた田畑を村(惣中)として連帯責任で耕作する。
罪人が処刑になってもその家はその子供に継がせることもあった。惣堂は村にやってくる旅人の宿泊場所として認められていた。
村と地頭の間は挨拶時に提供しあうものを通じてギブ&テイクの関係にあった。百姓の夫役は有償だった。
資源を頼る場としての山野河海の管理と争いの実態。肥料になる草刈については森林の管理のために必要であったために大目に見られた。特に山野の囲い込みとそこにやってきたよそ者の鎌を取るという行為。
ひんぱんにあった村同士の山の領域争いとその仲介を行う異見(共同裁定)。命と引き換えになるような危険な役目を請け負った村人への村としての補償のじ。目安箱の登場。
飢饉や戦乱や近隣との争いなど、厳しい状況の中で様々な掟を作って生きなければならなかった百姓や村の実情が垣間見える本だった。
新書、256ページ、岩波書店、2010/5/21