密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

「流れる臓器」血液の科学―血球たちの姿と働き

著:中竹 俊彦

 

「私は、マスコミが広めた『血液サラサラ』『血液ドロドロ』は、医学や科学科学の立場からはふさわしくないと考えます。『血液型性格診断』など論外のことです」。

血液の成分、働き、赤血球や白血球などの役割、仕組みの概要についてわかりやすくコンパクトに解説している。最後には血液に関する様々な誤解や非常識についても言及している。

「第1章:血液を観る」「第2章:血液の循環と役割」「第3章:ヘモグロビンの正体」「第7章:血液『常識』の非常識」は比較的平易な内容で、特に前提知識がない方でも、そう難しくはないと思われる。「第4章:白血球の姿と働き」も要点がうまく整理されてまとまっているが、生体防御機能については本書が初めてという方は「生物図録」など他のVisualな解説本も参照した方がよいかもしれない。「第5章:凝固と溶解の驚くべき仕組み」も要領よく書いてあるのだが、個人的にはあまりなじみがないところであり凝固の第V因子以降の働きと抗疑固の説明にはあまりついていけなかった。あと、「第6章:赤血球と血小板の誕生」における、血球の血管デビューの写真と、巨核球から血小板が引きちぎれて出来る様子は、とても印象的だった。

意外に思われるかもしれないが現代は科学に関する迷信が溢れている。プラズマイオン効果などもそうだし、科学を語った非科学的な番組のせいで納豆がスーパーから消えたこともあった。本書を読むと血液に関してもそのような迷信がいろいろあることに改めて気づく。酸性食品をたくさんとったからといって血液のphが変わることはないし、血液サラサラとかドロドロは意味不明(血液はむしろ自力で流れないくらいドロドロが正常でサラサラだと異常)、血液型占いも根拠なし。コレステロールについても、体内で合成される量が圧倒的であって食品には左右されず、「遠慮なく卵料理を楽しんでください」とのこと。世の中の科学が進歩しても、結局われわれ一人ひとりがそれを正しく学ばないと意味が無いことを認識する良い機会にもなった。

 

新書、200ページ、講談社、2009/2/20

 

「流れる臓器」血液の科学―血球たちの姿と働き (ブルーバックス)

「流れる臓器」血液の科学―血球たちの姿と働き (ブルーバックス)

  • 作者: 中竹俊彦
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/02/20
  • メディア: 新書
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