密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

カラー版 - 横山大観 - 近代と対峙した日本画の巨人

著:古田 亮

 

 近代日本画の巨匠、横山大観について書かれた本。新書サイズで数にも限りはあるものの、文章だけでなく、カラー印刷でいくつかの代表作の写真が紹介されている。

 

 東京美術学校の第1期生であり、岡倉天と苦労をともにしながら師とあおぎ、強烈な批判を浴びながらも菱田春草らと朦朧体の作品を生み出し、貧乏にあえいでいた妻や子供との死別も経験し、日本が戦争の時代に進む中で日本画の巨匠としての地位を築いていったことは、よく知られている通りであり、本書でもひと通りの説明がある。戦後は戦争責任を追及する声もあったし、左寄りの人たちからはずいぶん批判されたようだ。

 また、本書では、大観の残した回想とそれ以外の記録や証言を突き合わせて、大観の記憶の誤りと思われることを指摘している部分もある。

 

 その点については大観自身があまり語っていないため、もしかしたら今までそれほど注目されてこなかったこととして、大観が美術学校に入る前に、3年間英語学校に入学して通っていたことにスポットを当てている点は印象的だった。師の岡倉天心もキャリア的にそうだが、成功を収めたアメリカでの展覧会をはじめとした海外歴訪で、意外に役に立ったのではないかというのはあるかもしれない。

 

 また、著者は、大観が戦後に富士と旭日をひんぱんに描いて、ある種の類型化に陥っていたことは認めつつも、自己模倣の暗黒にいたということは否定し、国は敗れたとはいえ国民精神を支える砦として日本を描く気持ちを持っていたという見解を示している。実際、大観は高い精神性を重視する情熱的な人物であり、画家の素質として人格を重視するタイプでもあった。

 

 個人的な話になるが、学生時代に足立美術館へ足を運んで以来、大観はもっともお気に入りの画家のひとりであり、横山大観の作品を集めた美術展にも何度も足を運んできた。今回、改めて大観の人生の歩みを触れながら、日本に大観がいてよかったと、強く思った。

 

新書、214ページ、中央公論新社、2018/3/20

 

カラー版 - 横山大観 - 近代と対峙した日本画の巨人 (中公新書)

カラー版 - 横山大観 - 近代と対峙した日本画の巨人 (中公新書)

  • 作者: 古田亮
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2018/03/20
  • メディア: 新書