密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

デフレの正体 経済は「人口の波」で動く

著:藻谷 浩介

 

「景気の波は普通の波、それに対して生産年齢人口の波は潮の満ち引きです」。(本書より)

 

 多くのデータを用いながら、日本経済停滞の原因は生産年齢人口(消費の中心になっている年齢の人口)の減少にある、と説明している本。率直に述べて、少子高齢化が続いて生産年齢人口が減ってゆけばそれが経済成長の足かせになることは、当たり前のことだと思うが、出版されて数年は一部で反発を招き、かなり議論を呼んだ。

 

 さすがに、少子高齢化の深刻度が年々増すにしたがって、今はあからさまな反対意見は減ってきた。ただ、著者が本書で指摘しているように、日本の経済成長の鈍化を景気のせいにしている人たちがかつては世の中にたくさんいた。そして、そのような人たちの主張に動かされて、日本は目先の景気刺激策のために国の借金をどんどん増やしてまで莫大な公共予算を投入した。また、そのような目先の景気刺激策優先を唱える主張が世間で幅を利かせていたために、相対的に少子高齢化が経済に与えるインパクトについて国民が気づきにくくなってしまい、国を挙げての少子高齢化対策が後手に回ってしまった面もあることは否定できないように思われる。

 また、今でもそのような主張をする人たちがいるが、著者は本書の中で、以下のような対策には生産年齢人口の大幅な減少を補うだけの大きな経済的な効果は期待できない、ということも説明している。

  • 外国人労働者の受け入れ→人口減少数に比べて相対的に少ないので効果は限定的
  • インフレ誘導政策→経済政策でインフレ誘導してみたころで、余りがちなものの値段を上げるのは困難
  • 技術革新内需振興に直接つながるという根拠はない
  • 出生率の向上→率にばかり目がいくが、出生の絶対数の増加が重要

 

 この本は2010年に出版されたものだが、上記の指摘は、その後の日銀の年間2%のインフレ誘導策がうまくいっていない点などと比べながら読むと、かなり的を得ていたものだったと思う。


その一方で、著者は本書の中で、以下のような提言を行っている。

  • 高齢富裕層から若年層への所得移転→若者の年収を1.4倍にする
  • 高付加価値品へのシフト
  • 外国人観光客増加策
  • 女性就労の促進

 

 ここに挙げられた方策のいくつかは、その後国の政策にも取り入れられたりしており、控え目にいっても、けして著者の提言は的外れだったとはいえない。

 ただ、これらの策をもってしても少子高齢化に対抗できるほどの力強さを日本経済に与えることができているかというと、なかなか厳しい。この本が書かれた頃より外国人観光客は大幅に増加し、多くの観光地では外国人観光客への経済的依存度は高まっている。ただ、訪日外国人の数は増えたものの、まだ客単価が低く、経済成長のエンジンとして十分な力強さを持っているとはいえない。女性就労も進んでいるとはいえ、道半ば。高付加価値品へのシフトも、全体的にはうまくいっているとはいえない。何より、国民一人当たりの年収の増加に勢いがみられない。若年層への所得移転や若者の年収増加もうまくいっているとはいえない。


 もっとも、それではもっといい対策があるのかと問われれば、難しいと答えるしかない。経済は人口の波で動くという大きな事実を直視し、そのトレンドに合った社会構造にしていくしかないのではないかとも思われる。いずれにせよ、現在の日本が直面する深刻なデフレと人口減少の問題の関連性について社会的な問題意識が高まってゆく過程において、一定の役割を果たした重要な本であるように思う。

 

新書、270ページ、角川書店、2010/6/10

 

デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)

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