著:トマ・ピケティ、翻訳:山形浩生、守岡桜、森本正史
「本研究の総合的な結論は、民間財産に基づく市場経済は、放置するなら、強力な収斂の力を持っているということだ。これは特に知識と技能の拡散と関連したものだ。でも一方で、格差拡大の強力な力もそこにはある。これは民主主義社会や、それが根ざす社会正義の価値観を脅かしかねない」。
ぱっと見た瞬間、めまいがしそうになるくらい、ぶ厚い本だ。本文が608ページ。索引と原注と図表一覧で96ページ。合計704ページ。ずっしり重く、読んでいる途中で何度も腕に負担を感じた。しかし、中身もこの見かけに負けず劣らず充実しており、主張は明快で、今世紀前半に生きるわれわれに見過ごせないマクロ的なテーマを突きつけてくる。
著者は米国でも学んだことのあるフランス人の経済学者。古くからの記録や文学作品に正確な描写が残っているフランスを中心にしたヨーロッパの長期間にわたるデータをふんだんに活用しながら、アメリカや日本の情報も参照して、歴史的な潮流から21世紀の資本主義における特徴を位置づけた上で問題点を鮮明にし、それに対する提言をまとめた大著である。
扱われているテーマは幅広い。所得と産出。経済成長の歴史的な事実。資本、所有と富、公共財産と民間財産。フランス、イギリス、ドイツ、アメリカの資本。
人的資本、長期的にみた、資本/所有比率(β=s/g; s:貯蓄率,g:成長率)。1970年代以降の富裕国における資本の復活。低成長、高貯蓄。資本と労働の分配。21世紀初期の資本収益率。過剰な資本と資本収益率減少の関係。低成長レジームにおける資本の復権。資本が生み出す極端な格差。
主要国での格差の縮と拡大の歴史とそれを生み出したもの。新興国経済の幻想。格差を助長するスーパー経営者。集中する富。世襲社会を支える資本。世襲中流階級の出現がもたらしたもの。
相続と贈与の年間フローの国民所得比(by=μx m xβ; μ:生存者1人あたりの平均財産に対する死亡時の平均財産の比, m:死亡率, β:資本/所得比率)。21世紀における世界的な富の格差。産油国や中国の影響。21世紀の社会国家。累進所得税の歴史と課題。資本税。公的債務問題。
本書で中心となっているのは、r:(民間)資本収益率、g:所得と産出の成長率とした場合の r>g の関係である。誤解を恐れず、あえて粗っぽく説明するのであれば、このr>gの法則を中心に、2つの世界大戦を経験して過去にない経済成長と中流階層の創出をもたらした20世紀の世界が、1980年代以降の累進課税制緩和政策と経済の低成長化と富の蓄積と人口増加率の暫減によって、21世紀の富裕国は19世紀以前のような各自が所有する資本に大きくされる格差社会への道を歩んでいるということを様々な角度から解説した内容となっている。
解決方法として著者は、累進課税制の社会的なメリットを説明した上で、世界的な資産課税の導入を提言している。ただ、著者自身も述べているように、これはけして簡単なことではないだろう。
おそらく多くの読者がそうではないかと思うが、本書を読みながら、日本はどうなるのだろうかと思わずにいられなかった。本書には日本の現在までの歩みについても各国とのデータ比較の形でいろいろなところで触れられている。感覚的にはその内容自体に大きな違和感はない。ただ、例えば日本政府の累積債務が他の先進各国と比べて突出していることや、少子高齢化のスピードが著しく速いことについては詳しく書かれていないので、このような点については各自で考えて若干補正しながらこの国の将来像やあり方について考える必要があるように思われる。
単行本、728ページ、みすず書房、2014/12/6
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