密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

小さな会社を買うには。中小企業の事業後継者不足における事業買収入門。「0円で会社を買って、死ぬまで年収1000万円~個人でできる事業買収入門」

著:奥村 聡

 

中小企業の後継者不足問題が注目されて久しい。この先、127万社が廃業を迎えるという予想も発表されている。日本の会社の99.7%が中小企業なのである。この本はコロナ禍前に流行ったものなので、今は飲食店や宿泊・観光業で危機に瀕しているところがもっと多いかもしれない。

 

本書は、個人が事業継承に悩む企業オーナーから事業買収を行うための基本的なポイントについて書かれたものである。著者は事業継承の仲介をしている司法書士。

 

新規にはじめる起業に比べ、事業継承という方法は既に存在している事業を買うので、少なくとも今までその会社が何らかのビジネスを行って存続してきたというところからスタートできるという利点がある。よくも悪くも今までビジネスを行ってきた数字がデータとしてそろっていて、従業員や設備もある。そういうところから始められるという利点がある。ただし、個人が狙うとしたら、従業員数百人規模の会社は適当ではなく、年商で数千万円から2億円程度の会社が現実的なターゲットになる。

 

小さい会社は社長のオーナー企業が多い。人情味がありお客様や従業員を心から心配している一方、経営計画や予算計画を立てている例は少なく、数字との付き合い方が下手な人が多い。個人の債務保証によって銀行からカネを借りているのが普通。財務諸表はきっちりチェックする必要があるが、利益は一時的に水ましできることがあるし、簿外の問題があったりするあてにならないことも多いので、注意する。何より、現在の経営者との間でしっかりとした信頼関係を作りながらも、ビジネスと割り切ってしっかり交渉することが大切。

 

著者は、個人が会社を買うときの鉄則をいくつか挙げている。基本となるのは、普段から情報のアンテナを張っておき、目利き力と交渉力を磨くことだという。さらに、以下のような点が示されている。

・借金は大きくてもいい、資産は小さいほうがいい

・今よりも未来の「稼ぐ力」に注目せよ

・「技術」と「設備」には警戒すべし

・既得権益ごと買ってしまえ

・地の利を活かした戦い方をする

 

直接事業を買収するという方法だけでなく、分社という方法も紹介されている。これは、自分が欲しい事業だけを切り出してもらったり、債務を切り離して売ってもらうようにするやり方になる。具体的には、自分で新規の会社を立ち上げてその会社が事業を買い取る形をとる。あるいは、少し手続きが煩雑になるが、相手に子会社を設立してもらってほしい事業をそちらに切り出してもらいその子会社を買う、という会社分割の形にする方法もある。

 

事業継承で重要なのはオーナー社長だけではない。特に地方ではその傾向が強くあるが、地元のしがらみや人間関係にも気を配る必要がある。税理士が売却額に疑義を挟んでくることもある。

 

今や事業継承を扱うWebサイトはいくつもある。ただ、経験のない全くの素人がこの世界に足を踏み入れるのは簡単ではない。売却する側も何等かの経営の経験のある人や、ある程度しっかりした基盤を持った会社組織に売りたいと思うだろう。そもそも、個人でもお安く買えるような小企業を手にいれて経営することが本当にいい選択といえるかどうかは難しい。著者は、お安く買える会社を買って成長させることで大きな利益を得られると強調しているが、そんなおいしいシナリオがそう簡単にあるとは思えない。著者があとがきに書いているように、「本当にやる方は、少数派。それが現実」。ただ、著者の豊富な経験やエピソードに基づいて書かれてあり、継業の話を通して世の中やビジネスの世界の一面を学ぶ機会にはなった。

 

光文社新書、288ページ、2019/4/30