密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい

著:三戸政和 

 

中小企業の事業継承手段としてのM&Aを活用し、小さい会社を厳選して購入して資本家として生きていくことを勧めた本である。実際、本書にもあるように、ネットで「M&A 案件」と検索すると、実にたくさんのサイトと案件が登場する。全国410万社ある企業の中で中小企業は380万社を占めるが、そのうち7割が後継者不足に悩んでいる。今や、小さな会社のM&Aは一定の規模があるマーケットである。

 

といっても、実際のM&Aについての説明は最後の4分の1ほどしかない。まずは、「人生100年時代」と言われ、10年おきに平均寿命が2-3年延びている時代に生きていくためには、生涯現役の考え方は重要であり、下流老人化を避けるための道として、資本家を目指すことが選択肢として示されている。

 

次いで、「スタートアップ」に代表されるような「ゼロイチ起業」について説明してある。今や会社は簡単に作れるが、会社を作ったからといってそれだけで儲かるわけではない。起業は事業を作りだすことであり、それでキャッシュフローを生み出して経営を軌道に乗せて成長させていくということは誰にでもできることではなく、たいていは失敗する。ベンチャーキャピタルには様々な案件が持ち込まれ吟味されるが、そのうち投資実行に移されるのは月に40~50件あるうちの1件くらい。さらにそこから年に2~3件が上場か買収に至れば大成功である。残念ながらほとんどの起業家は消えてゆく。成功できるのは選ばれた人だけである。

 

よく考える人が多い飲食店経営の厳しさについても丁寧に説明してある。飲食店経営は、仕入れ、原価計算(廃棄率管理)、製造(調理)、工程管理(回転率)、販売(接客)、労務管理(人件費管理)、リピーターをつかむための顧客管理、マーケティング、商品開発(メニュー開発)、心地よい空間の提供などの要素がすべてある。FL比率(食材原価+人件費)が売り上げの55%以下でないと採算が合わない。町の中華料理屋さんのように住居と店を一体化させることで様々なコストを節約して細々と続けるということはあるが、一般的に廃業率は他の業種より高く、手を出すべきではないとしている。

 

次いで、多くの中小企業は大企業で当たり前のシステムや方式や教育を取り入れておらず、非効率が多く、大企業の管理職を経験した人であれば立て直せるケースがあるとして、見直しのポイントとして以下のような点を挙げている。実際、投資ファンドはこのようなことをやるのだという。

 

・在庫を洗い出して整理する

・製品ごとに営業利益率を計算する

・赤字の顧客との取引をやめるか、値上げ交渉をする

・不良在庫を処分する

・不採算部門を止める

・帳票をシステム化する

・全仕入先から見積もりを取り直す

・部品の発注ロットを小さくする

・部品の納期を確認し、早い発注を抑える

・在庫の置き場を最適化する

・運送会社と運賃の交渉をする

・ホームページを作り、自社の技術を公開する

・新規の展示会に出展し、PRしてみる

・業務効率化のクラウドを利用する

・新規営業の見込み顧客リストを作ってみる

・見込み顧客へパンフレットを郵送してみる

・見込み顧客への電話をそれぞれ3回ずつしてみる

・名刺管理システムを導入する

・勤怠管理クラウドサービスを使い、社員の生産性を可視化してみる

・会議を開き、社員の意見を聞き、自分の考えを社員に伝える

・朝礼で、前日と当日の行動管理をする

・週次会議で、先週と今週のPDCA管理をする

・月次、四半期、年度計画を立てて、実行に向けて進捗管理する

 

とはいえ、ほとんどの中小企業は何等かの問題を抱えている。社長しか知らないこともある。なので、以下のようなポイントをチェックして自分が社長になったときクリアできるかどうか見極めることが大切になる。場合によっては、安く買える条件にもできる。

 

・帳簿に書かれていない負債(簿外債務)はないか

・保有資産は、実態価格を反映しているのか

・回収できそうにない売掛金はないか

・在庫はきちんと帳簿通り存在するのか、不良在庫ではないのか

・土地の権利関係、賃貸契約は、法的に担保されているのか

・法令違反または不正な会計はしていないか

・係争中の事案はないか

・クライアントとの関係は良好か

・仕入先との関係は良好か

・金融機関との関係は良好か

・従業員との関係は良好か

・従業員に残業代を含む給料をきちんと払っているか

・社会保障制度にはすべて介入しているか

 

買収のテクニックについても、少しだが掲載されている。LBO(Leveraged Buyout)とその中の手法の一部であるMBO(Management Buyout)。ポイントは、単に会社を買って経営するというのではなく、それによって企業価値を高めることに努めること。そうすれば、企業価値が買収時の何倍にも上がるので、通常の役員収入だけでなく、配当収入も期待できる。何より自分の会社を持てば経費が落とせる。さらに、企業価値が高まることでいざというときに売却する場合に、大きなキャピタルゲインを期待できるようになる。縮小市場においても退出企業が多ければ「残存者利益」を狙うという手はある。

 

準備は40-50代に行うべき。仲介業者としては、「日本M&Aセンター」「M&Aキャピタルパートナーズ」「ストライク」などの大手がある。また、事業継承を後押しするために2016年に「経営継承円滑化法」が施行されている。融資についても、日本商工会議所と全国銀行協会によって、無担保無保証のガイドラインが策定されている、というようなことも書かれている。

 

新書、179 ページ、講談社、2018/4/20