著:ジェイソン・カラカニス、訳:滑川 海彦、高橋 信夫
「10億ドルの会社を選ぶのではない。10億ドルの創業者を選ぶのだ」。
「誰も実現性を信じなかったプロジェクトに対して小切手を書くのがエンジェル投資家としての私の仕事だ。これ以上スリルのあるギャンブルは世界中探しても存在しないだろう」。
「この世界には2つのビジネスがある。とてつもなくスケーラブルなビジネスとそれ以外だ」。
「ウソで始まった関係は必ず涙で終わる。妄想なら受け入れていいが、ウソには絶対に近づくな」。
よちよち歩きのスタートアップ企業への投資は普通の投資とは全く違う。リスクは非常に大きく、多くが失敗する。投資先200社のうちの1社がリターン全体の99.9%以上を生み出す世界である。
スタートアップの創業者は苦難に直面しているのが普通なので、おカネを出すだけではなく、適時サポートもしてやらなければいけない。著者の場合、週の99%以上の時間はポートフォリオとしている何十社の苦悩するスタートアップの対応に費やしている。
まだ無名だった頃の「ウーバー」に投資して巨万の富を得て有名になった投資家が、スタートアップ投資の仕事の実際について語った本。著者によると、大きく分けて、エンジェル投資家は以下の4つの能力が必要になる。
- カネ:小切手を書けること
- 時間:創業者がさまざまな課題を解決するのを手助けできること
- 人脈:創業者と投資家、顧客を仲介できること
- 専門知識:創業者がミスを犯して時間やカネを無駄にするのを防げること
平均して年間40社への投資をしているエンジェル投資家として大成功する一方、著者には、初期のツイッター社からの投資依頼を断って千載一遇のチャンスを逃した苦い思い出もあるという。本書には、そういう幾多の失敗体験、成功体験、スタートアップ投資のポイント、見極め方、気を付けなければいけないことが、数多く盛り込まれている。
なにしろ、「シリコンバレーでいちばん大口を叩いているのは誰だ?」という視点で取締役に抜擢されたこともあるくらいで、かなり能弁な人であることは、本書を読むとよくわかる。
- どのプロダクトが成功しそうか推測するのではなく、成功しそうな創業者を見極めて投資する。
- テクノロジー・スタートアップに投資するのが一番効率がいい。
- たくさんのスタートアップが集まるシリコンバレーで活動すること。
- 優れた創業者は、ほぼ全員が、頑固で熱狂的で独善的な妄想に浸る他人の感情にはまったく注意を払わない、わがままで付き合いにくい人種。
- スタートアップの原動力はなんといっても人材。
- エンジェル投資家は、スケールの小さい批評家などに起業家が耳を貸さないように盾になるべき。
- テクノロジー・スタートアップの評価がアップするスピードは目覚ましいが、ダウンするスピードはそれ以上。
- スタートアップのアドバイザーになるのはエンジェル投資家入門として非常によい方法。
- 確率から言えば創業者が大きな利益を手にできる可能性は非常に低く、投資家やヴェンチャーキャピタルの方がオッズが高い。
- 優秀な弁護士に明確かつ抜け道のない契約書をつくってもらう必要がある。
- パートナーを選ぶときにはどんなに慎重にしてもし過ぎることはない。
- 金持ちになる方法はたったひとつ。懸命にリスクを選択することだけ。
- すでに成功を収めた人にいち早く近づき、いわば「勝ち馬にのる」ことが成功への近道。
- エンジェル投資家を目指すなら、まずシンジケートに加わって少なくとも10回は少額の投資をしてゲームのノウハウを蓄えるのがよい。
- 投資するしないにかかわらず、1件1件の投資案件に関してディールメモを書くこと。
- エンジェル投資家は9時から5時の仕事ではない。
- 投資候補25社にすべて当たったあとで、全体を見渡して一番有望な1社を選ぶ。
- スタートアップが失敗する理由は無数にあるので、「投資しない」と決めたことで悩むことはない。
- この業界では評判がすべて。
- スケールの小さなアイディアと元気のない創業者を除外し、すごい創業者とスケールの大きなアイディアには倍賭けする。
- 人が重要なのではない。人がすべて。
- 小さくスタートするのは構わないが、小さく考えてはだめ。
- 大切なのは誰が最初かではない。市場が熟したとき、誰が最初になるかだ。
- 創業者であるということはチームの誰も解決できない問題を自分で解かなければならず、うまくいかなければ100%責められる。スタートアップが失敗する一番の理由は創業者が努力を放棄すること。
- 創業者が投資家と話をしなくなるのは、ほぼ間違いなく会社がつぶれる兆候。
- ある会社に投資してからリターンを得るまでには平均7年かかる(戻ってくればの話だが)。
- エンジェル投資の80-90%は失敗する。
- 創業者には必ず月次報告書を送らせること。
- 自分の権利を文書化しておくこと。
- 悪い創業者は2年目にはすぐわかる。その頃には実績が必要だから。
- ブリッジ資金を提供する場合は、そのカネで何を達成するか創業者と話し合うこと。
- 創業者の中でもCEOの仕事は最悪だ。
- 創業者自身に頼まれない限り、絶対にマスコミと関わってはいけない。
- 株主の仕事は舞台裏で問題を片づけること。
- 慌てることはない。偉大な会社はいつでも現れる。消費者向け市場では特にそう。
- 今では創業者がプロダクトを完成させて市場に出すまで投資を待つのが当たり前。
- すごい会社は、「売る」のではなく「買われる」
- 株を売ることも分散することもできたのにそうせずに破滅したペーパー長者はたくさんいる。
- 成功したスタートアップには100人のエンジェル投資家がいるが、失敗したスタートアップは孤児。
- 問題を解決する鎮痛剤系と、ディズニーのように元気をもたらすビタミン系のビジネスがある。
- 価格決定権は滅多に手に入らないが、それが手に入ると法外なリターンを手にできる。
- 人生に偶然はつきものだ。しかし幸運は呼び込むこともできる。
著者は自身も起業経験があり、さらに「セコイアキャピタル」社で投資すべきスタートアップを見極めるスカウトの役割をしてきた。得意とするマーケティング分野での強みを生かし、スタートアップ企業のアドバイザーや役員として名を連ねた経験もある。それらが、投資家として成功するうえで、資金やネットワークやスキルを得るのに役に立っている面はあるようだ。
ステージ別のスタートアップの投資方法や伸び方についても解説されている。この本はあくまでも投資家目線で書かれているが、スタートアップの創業者を目指す人にとっても間違いなく役に立つ。
「父親が大富豪だったら、と子どもの頃に私は夢見た。ハーバード大学出の銀行家か投資家で財産は安全な信託基金になっているはずだ。…(中略)…ところがうちの父親は、刑務所行きだけはようよう免れた破産者だった」。
「私の両親は、少なくとも人生の時間の90パーセント以上、カネの苦労を続けてきた」。
自身の生い立ちについても書かれている。けして恵まれた家庭に生まれ育ったわけではない人生についても振り返り、「アメリカン・ドリームは確かに存在する。ただし、広く均等にはばらまかれていない」とも述べている。そういった背景が、エンジェル投資家として活動する原動力になっているのだろう。
単行本、368ページ、日経BP、2018/7/12
エンジェル投資家 リスクを大胆に取り巨額のリターンを得る人は何を見抜くのか
- 作者: ジェイソン・カラカニス,孫泰蔵(序文),滑川海彦、高橋信夫
- 出版社/メーカー: 日経BP
- 発売日: 2018/07/12
- メディア: 単行本
エンジェル投資家 リスクを大胆に取り巨額のリターンを得る人は何を見抜くのか [ ジェイソン・カラカニス ]
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