密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

薄い本だが、オタクなテーマで面白い。「江戸時代のお触れ 」(日本史リブレット)

著:藤井 讓治

 

 インターネットもテレビも新聞も無い時代に、幕府の政策を広く伝える手段であった江戸時代のお触れについて解説した本。実際のお触れの文書の写真や、高札の写真が時々載っている。著者は日本近世史を専門とする大学名誉教授。

 金銀改鋳。火事・防災。風俗。朝鮮人参所持調査。酒造半造り令。鳴物停止令。日用品統制。様々なお触れが出されていたのがよくわかる。犯罪人捜査のための人相書や、大八車の規制なども見られる。

 お触れの市中への経路は、御用部屋→老中もしくは大目付→町奉行→町年寄→各町の名主となる。

 また、お触れの浸透をはかったり江戸の町を直接対象とした規制類については、町奉行→町年寄り→各町の名主となる。火事拝借米についての申し渡しなどは、町年寄→各町の名主。神田明神の神事能などは、町年寄の手限りとなっているという。

 遵守を求める重要なものは、各町の名主が町の住民に聞かせてから連判状が作成されて奉行所へ提出されている。地域による違いもあり、京都で出されたお触れには独自のものもあれば、江戸と共通するものも多くある。

 


 戦国時代以降、高札もよく利用されてきた。具体例としては、織田信長の楽市・楽座が有名である。江戸時代においても、キリシタン禁制を広めるためといった用途で使われている。

 幕府の直接支配が及ばない大名領に対しても、老中・勘定頭の連署する奉書を出して大名に高札を立てさせた。高札が伴わない形の諸大名へのお触れとしては老中奉書が使われ、幕府の権威向上と共に1650年代以降は無名で出される。

 残されたお触れから、当時のいろいろなことがわかる。例えば「生類憐れみの令」は、ある年に出された特定の法令や、体系だった法令を指すわけではない。生類に関する様々なお触れが1685年~1709年の間に散発的にぱらぱらと出されてそれを総称したものになるという。どのように定義するかで数は変わるが全部で100以上にのぼり、捨て子に関するもの以外は後年において1709年に停止されている。

 また、田畑永代売買禁止令は全国令ではなく、慶安御触書も岩村藩で刊行されたものが多くの藩で1649年の幕府法令として扱われるようになった、という経緯があるようだ。

 薄い本だが、お触れを通じて、幕府の治世の実態の一部に触れることができるという点で、興味深い内容だった。

 

単行本、96ページ、山川出版社、2013/8/1

江戸時代のお触れ (日本史リブレット)

江戸時代のお触れ (日本史リブレット)

  • 作者: 藤井讓治
  • 出版社/メーカー: 山川出版社
  • 発売日: 2013/08/01
  • メディア: 単行本