監修:永田 生慈
「北斎は、立ち止まることを知らない絵師だった。ひとつのことに熱中し、あるレベルに達すると、すぐ新たなジャンルに挑戦する。常に探究心を持ち続け、自己の絵画世界を追求していったその姿こそ、北斎最大の魅力なのである」。
葛飾北斎(1760-1849)の作品と生涯を紹介した本。オールカラー。ビジュアル資料を中心に解説が行われ、見やすく、わかりやすい。
版木彫の生業を捨て、絵師を志してリアルタッチの役者似顔絵で有名になっていた勝川春章に入門。師の他界後は勝川派を離脱して短期間で宗理派様式をマスターする。
摺物や狂歌絵本で評判を得て、確固たる地位を築く。手掛けた読本は10年間で190冊あまり。ただし、多くの読本でコンビを組んだ曲亭馬琴とは何度か衝突して絶交に至る。
洋風表現を取り入れた風景画を描き、遠近法や様々な題材の描き方に精通し、和漢洋の技法に通じる。有名な「富岳三十六景」などの風景版画は、多彩な北斎の人生では数年のことにすぎない。
どうやら、たくさんの作品を残した人気の絵師であったのに貧しかったらしいが、その葬列を見送る人達は武士も含めて100人にものぼり、長屋の住人のものとしては大層立派な葬礼が行われたという。
「天我をして五年の命を保たしめハ、真正の画工となるを得へしと、言吃りて死す」。
ページ数からすると薄い本だが、多くの作品が紹介されており、北斎の変遷と作品の特徴が、視覚的にわかりやすくまとめてある。
個人的な話になるが、1993年に東武美術館で「大北斎展」を見たときの衝撃は今でも覚えている。今回、久しぶりに北斎の足取りをたどりながら、そのプロフェッショナリズムと挑戦を重ねて死期を迎えた90歳にしてなお向上心を失わなかった前向きさに触れて、ちょっと感動させられた。
単行本、78ページ、東京美術、改訂版、2019/3/22
もっと知りたい葛飾北斎改訂版 生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション) [ 永田生慈 ]
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