密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

技術用語は少なくエンジニアかどうかは関係なく物流業務の理解に役立つ。『 エンジニアが学ぶ物流システムの「知識」と「技術」』

著:石川 和幸.

 

 物流の仕組みについて解説した本。「エンジニアが学ぶ」とあるように、物流の専門家というよりはこれから物流のシステムに関係しなければならない人の教科書的なものを想定して書かれているが、実際は技術用語は一般常識的な範囲であり、エンジニアということとは関係なく物流システムとはどういうものかという理解に役立つ内容になっている。

 

 速い輸送、変化に柔軟、顧客の状況に対応したきめ細かいサービス。現代の物流に求められる要求は高い。一方で、物流を支えるトラック業界の人手不足は深刻化している。共同配送や帰り便の活用、アウトソーシングと自社物流の最適な組み合わせ、宅配ボックスの活用、将来的にはドローンの利用も期待されている。

 また、企業活動のグローバル化に伴って、物流もグローバル化している。そのコストは売上の数パーセントを占める。その低減のためには輸送モードの選択・中間の倉庫のコストなど様々なコストの把握と改善が必要になるがそれは簡単ではない。

 

 必要な資材を調達する「調達物流」。販売のための「販売物流」。「工場内物流」という考え方もある。出庫作業における自動倉庫、 自動ピッキング、 自動搬送、 自動仕分け(ソーティング)、 自動包装。RPA(Robotic Process Automation)、AR(Augmented Reality)、IoT(Internet Of Things)の活用への期待。ただし、かつてRFID(Radio Frequency Identifier)に期待が集まったが、モノの認識だけにとどまっているので、どこまで物流に革命をもたらすかはわからない。

 

 著者の現場での経験では、かつては中小倉庫・物流では品質(Q:Quality)、コスト(C:Cost)、 納期(D:Delivery)管理、安全( S:Safety)の経営的な管理に問題があったが、今は改善がみられる。代表的な指標としては、納期遵守率、誤入荷率、汚損率、倉庫稼働率、誤出荷率、積載効率、実車率といったものがある。

 ただし、現代ではそれらに加えて経営的な視点を持った管理指標も大切である。調達物流費原価率、対売上高物流費、サプライヤー別物流費、対売上高倉庫費、外注対自社社員比率といったものになる。

 現実には、対売上高物流費も不正確な企業が多くあるし、調達物流費が原材料費と一体化していて区別ができない例もある。そのような状態を改善するには、物流費の会計システムでの 処理をきちんと定義する必要がある。

 

 物流管理上のシステムは倉庫管理の仕組みが軸になる。倉庫 管理 システム( WMS: Warehouse Management System)による入庫・保管・出庫の管理。在庫の単品管理とロケーション管理。出庫指示と在庫引き当て。ピッキングリスト作成。出荷伝票、納品書、納品受領書の出力。工程内の在庫については、製造実行システム(MES:Manufacturing Execution System)で行う。

  トレーサビリティのニーズの高まり。物流単独で考えるのではなく、物流を取り巻くモノの流れの全体を俯瞰した最適化の必要性が高まっていること。

  センター倉庫、地域倉庫、デポ倉庫。倉庫内物流。保管ではなくモノを集めて仕分けしなおして送る通過型倉庫。リサイクルの要となる回収倉庫。中間業者の帳合い(売り先の勘定を集約する)と物流。

 

物流のプロセスに関しては、さらに以下のように個別の管理業務に分けた説明がおこなわれている。

  • 倉庫管理:ロケーション管理、現品管理、有効期限管理、ロット管理、シリアルナンバー管理、荷役、特殊梱包指示、加工指示
  • 輸配送管理:輸送モード、タリフ(輸送料金)、配車計画、出荷指示
  • 在庫現品管理:有効期限管理、ロット管理、シリアルナンバー管理、原産国管理、有効成分管理(力価)、新規投入品の区別、営業確保在庫、受け払い管理、入庫管理
  • 引き当て・出庫・出荷指示:在庫引き当て、ロット逆転防止、WMSとERPにおける引き当ての分担(前者は現品管理、後者は資産管理)
  • 発注計算・補充計算:定期・定量、不定期・定量(発注点方式やダブル瓶法)、定期・不定量、不定期・不定量、梱包材などの管理
  • 輸送計画:配車計画、板取り、日本ではほとんど使わない最適ルート計算
  • 物流トラッキング:自社の受発注伝票・出荷伝票と物流会社の物流伝票番号や進捗の紐づけ
  • 物流パフォーマンス:対売上物流費(配送費と倉庫費)、在庫月数、在庫回転数、調達物流費、積載効率・運行効率、倉庫稼働率
  • トレーサビリティ:トレースバック、トレースフォワード

 

 国際物流では物流に国際貿易のプロセスが並行して動く。輸出入では異なるし、船舶と航空便でも異なる。輸出入を専門とするフォワーダーの役割。国際物流における取り決めであるインコタームズの概要。

 適正な発注計算・補充計算を行うために必要な需要計画とその種類。所要量計算。基準在庫と安全在庫。発注計算の方式。SCM, ERP, MES(Manufacturing Execution System), WMSの関連性と分担。

 

 SCMについては、「必要なモノを、必要なときに、必要な場所に、必要な量だけ届けるための構想・デザイン、計画、統制、実行の仕組み」として定義している。そのためには、需要予測 ─ 販売計画 ─ 仕販在計画 ─ 生販在計画 ─ 生産計画 ─ 調達計画 ─ 輸配送計画(配車計画)を連係させる。また、SCMの神髄は計画マネージメントであるとして、Sales & Operations Planについて5つのプロセスに分けて解説されている。類似なものとして日本では、PSI計画がある。

  TMSの解説。物流の高速化や無在庫化の動き。オムニチャネル対応とドロップシップ。VMI(Vendor Managed Inventory:預託在庫)。流通加工。倉庫作業のロボット化。

 

 全体概要から個別要素まで、粒度を変えて繰り返し説明して深堀する形をとって構成されている。適時図解も入っている。このため、特に前提知識は必要はない。一般的な物流業務入門として適している。

 

単行本、翔泳社、316ページ、2018/6/20

エンジニアが学ぶ物流システムの「知識」と「技術」

エンジニアが学ぶ物流システムの「知識」と「技術」

  • 作者: 石川和幸
  • 出版社/メーカー: 翔泳社
  • 発売日: 2018/06/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)