密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

実は深い、ラジオ体操の歴史。『素晴らしきラジオ体操 』

著:高橋 秀実

「なぜって、あんた、ラジオ体操ですから」。


「雨が降ろうが雪が降ろうがあたしは休めません」。


「お百度参りと一緒です。行かないと気が済まないんです」。


「ラジオ体操してると死なないんです」。


「照れちゃダメよ。照れると背筋もピッと伸びないから」。

 
 予想以上に深くて面白かった。テーマは、おなじみのラジオ体操。1998年に出版された本の文庫化である。2012年12月付の「文庫版あとがき」が追加されている。

 まず、高齢化が進行する中、新老人たちが続々「ラジオ体操人」化する現象が各地で顕著になっている状況を取材し、その様子や、最初に紹介したような声をユーモラスに紹介している。

 中には、ラジオ体操のために「JAPAN」の文字が入ったお揃いのユニフォームを作り、途中の機内でも欠かさず体操しながら海外遠征を行うご老人達もいるという。戦後のラジオ体操の改訂版を作った人にも取材している。

 

「そうだ。それだ。その"間"が命なんだ。その間がリズムを生み出すんだ。その"間"がないと"間抜け"だ。伸びすぎたら間伸びだ。ラジオ体操はすべての動作にその"間"を入れてある」

(戦後の改訂版ラジオ体操を作った遠山喜一郎氏)。

 

   次いでラジオ体操の誕生と発展及び苦難の歴史についての解説が行われている。実は、あまりにも日本人になじみすぎているために資料や記録は意外に少なく、調査は結構難航したようだ。しかし、そこから浮かび上がってきたラジオ体操が歩んだ道のりの全貌は、なかなかドラマチックだ。

 

 米国で広がっていた保険会社の体操普及運動とそれにヒントを得た人々。簡易保険との結びつき。日本放送協会の関心。昭和3年に始まったラジオ体操第一の放送。国民への広がり。軍国主義との結びつき。様々な種類の体操の出現。

 

 戦後、GHQの圧力をかわし、あの手この手でラジオ体操の存続に尽力した人々。現在われわれになじみ深い戦後改訂版の登場。ラジオ体操の生みの親といわれる人の子孫や、戦後の改訂版ラジオ体操を作った人にもインタビューを行っている。

 予想以上に深遠なラジオ体操の話を通じて、昭和という時代や日本人の国民性や気質も見えてくる一冊になっている。

 

文庫、250ページ、草思社、2013/2/1

素晴らしきラジオ体操 (草思社文庫)

素晴らしきラジオ体操 (草思社文庫)

  • 作者: 高橋秀実
  • 出版社/メーカー: 草思社
  • 発売日: 2013/02/01
  • メディア: 文庫