密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

太田裕美「木綿のハンカチーフ」、大瀧詠一「君は天然色」、松田聖子「白いパラソル」「風立ちぬ」「赤いスイートピー」他、後に大ヒットメーカーになった松本隆が昭和50年に出版した本の再発売。『微熱少年』

著:松本 隆

 

「ぼくは北山修氏のように『戦争を知らない…』と無邪気にひらきなおる勇気がない。ドストエフスキーの死刑未遂事件や、戦後のものかき達の戦争体験を、ぼくがどんなにうらやましそうな眼つきでながめることか。ぼくらにはほめたたえる何ものもなく、信じられるなにものもなく、同時に失望する何ものもない時代に育った。ぼくらは彼らの豊饒な青春を読み、ぼくらの前にひろがっている風景を、自然を損なうことなく見つめているだけだ」。

 

 アグネス・チャン「ポケットいっぱいの秘密」。太田裕美「木綿のハンカチーフ」。大瀧詠一「君は天然色」。中原理恵「東京ららばい」。近藤真彦「スニーカーぶる〜す」「ハイティーン・ブギ」。寺尾聰「ルビーの指環」。原田真二「キャンディ」。松田聖子「白いパラソル」「風立ちぬ」「赤いスイートピー」「小麦色のマーメイド」。安田成美「風の谷のナウシカ」、他。キラ星のような数々のヒットを飛ばし続けてきた松本隆が1975年に出版した本を2016年に再販したものである。

 

「詞を書く作業はたとえば恋人に贈り物を選んであげるようなものだ。ヒロインがどんな色のドレスを着たら一番華やかに見えるか、僕は衣装ケースを手さぐりするように、彼女によく似合う言葉を探し出してゆく」。 

「作品の出来、不出来など、二の次なのである。もっぱら、その時代にどこまでくいこんで、人の心の中を流れることができるかが先決で、よくすれば、その時代の色合いまで表白しうる唄となるのである」。

 

 内容としては、大きくは、詩作を交えたコラム、洋楽のレビューを兼ねた関連するコラムの2本立てとなっている。また、ますむらひろしの少しアバンギャルド風の感じが入ったモノクロームの挿絵がところどころに掲載されている。

 

 それほど系統だったものではなく、アメリカへ行ったときに感じたことなど鮮明に具体的に書かれていることがある一方で、さらっと抽象的な表現で思いを書いているというものもある。ある意味、散発的で、よくいえば多面的な内容である。そうなった理由は、あとがきにある以下の言葉に集約されている。

 

「微熱に魘(うな)されるように生きてきた。一寸先は闇だったし、誰も導いてはくれなかった。道を決めてから歩き出す性分じゃないから何度か迷ったこともある。曲がり角にさしかかる度にぼくは独り言に似た短文を書いた。それを拾い集めて編んだのがこの書である」。

 

 そういう本だったので、読んでどこまで面白かったかということについていうなら、面白いところもあったし、そうでもないところもあった。ただ、若い頃の松本隆のセンスと才能がところどころ光っていて、興味深かった。

 

 ただ、せっかく40年以上を経ての再発売なので、できれば現在の松本隆が、この本についてあるいはこの本を書いたころの自分についてどのように思っているのかについても、文庫版あとがきなどの形で収録されていればよかったのではないかと思う。

 

文庫、256ページ、立東舎、2016/1/20

エッセイ集 微熱少年 (立東舎文庫)

エッセイ集 微熱少年 (立東舎文庫)

  • 作者: 松本隆
  • 出版社/メーカー: 立東舎
  • 発売日: 2016/01/20
  • メディア: 文庫