著:石井 誠治
木について、植物的な知識だけでなく、文化や歴史的な話を絡めて解説している本。著者は、樹木医や森林インストラクターをしているという。まじめに、淡々と書き綴られており、以下のような構成になっている。
第1章 木を学ぶ
第2章 木と人間
第3章 木の歴史
第4章 木と信仰
第5章 木と生活
生物学的な解説でいうと、芽や葉や樹木そのものだけでなく、例えば根と菌根菌の関係について詳しい。病害虫の被害についても各所で詳しく書かれており、アメリカから侵入してきたマツノザイセンチュウによってピークの年には霞ケ浦の面積に匹敵する面積の松が枯れてしまったこととか、折れた木が再生する方法とか、大樹にキノコがたくさんできるということは内部の腐朽が進んでいることを示していてそこから数年後にキノコが減って葉の数も減ったり枝枯れがしてくると幹の内部がほとんど分解されている危ない状態だとか、ブナヒメシンクイという蛾がブナの実を食べてしまうこと、桜や梅の正しい選定方法などというような話が出てくる。
文化や歴史に関係した話だと、縄文時代における食用含めた漆の利用についての話、ワシントンの桜、染井村や百人町や六義園とツツジの話、マツが果たした減災の役割、クリと縄文遺跡、時代によって仏像造りに好まれた材質が違うこと、クスノキから生産された樟脳(カンフル)が昔は日本の重要な輸出品であったこと、柿は江戸時代には食用以上に防水用の柿渋用に重宝された、というような話がある。
海外のネタもあるが、基本的に日本の木と文化の話が中心であり、いろいろな木の植物学的な特徴だけでなく、日本人が身近な木々をどのように利用して付き合ってきたのかということも部分的に理解できるようになっている。地味な本だが、良い本である。
新書、224ページ、山と渓谷社、2015/7/17